国籍 アメリカ
製作 2013
販売 松竹
今回もゾンビ映画です。レンタル版を吹き替えで視聴しました。予告編&Amazon先生のあらすじからどうぞ。
【予告編】
【あらすじ】
“平凡な学生アーティは、片思いの幼馴染を訪ねて運転中、突然道に現れたゾンビにパニック! 車は木に激突。目を覚ますとあたりは人喰いゾンビが大量発生。 左手を噛まれたアーティは、神をも愚弄する牧師、マリファナ中毒の幼なじみ率いるゾンビキラー集団に救われる。 バット、弓矢、銃で打つ! 射つ! 撃つ! ゾンビとの戦いがアーティを勇敢なゾンビキラーへと変えていく。 なぜか、ただひとりゾンビに感染しない男――アーティは世界の救世主なのか! ? 全てが揃ったパーフェクト・ゾンビ・アクション!(あらすじ:Amazon商品ページより引用)“
ストーリー………D
ゾンビの質………B
キャラクター……C
設定………………D
総合………………D+
おすすめ度………D
【良い点】
・ゾンビの質がまあまあ高い
・面白そうな題材(設定)
【悪い点】
・ゾンビとしても青春ものとしてもどっちつかずで中途半端
・良い設定を全く活かし切れていない
話の内容としてはかなり粗のある部分、気になる部分もありますが、全編通して見るとそこそこ面白いです。一応ゾンビ+青春ものなため、どちらかと言えばゾンビ映画はあまり見ないという方の方が楽しめると思います。
【以下、ネタバレ注意!】
その前に、最初にこれだけは述べておきますが、この映画の目的は『恋した幼馴染を探しに行く』ということだけなので、ストーリー自体はペラッペラです。主人公が彼女を探しに、ゾンビだらけの世界を放浪するだけです。ただし、その間様々な出会いがありますので、退屈はしないでしょう。
では、まずはいつも通り、良い点と悪い点に分けて見てゆきましょう。
今作の良い点は、ゾンビの質はなかなか高いことと、題材が面白く期待感を持って先を見られることです。
始めにこの映画ですが、ゾンビの出来は標準以上と言えるかと思います。違和感があったり、安っぽさを感じたりということは特にありませんでした。B級のゾンビ映画としては充分な出来でしょう。
また、ゾンビ+青春ものというテーマ自体はなかなか面白い上、本作には通常のゾンビ映画と違ったオリジナリティ色を持つ設定もいくつか存在します。例えば、主人公がアウトブレイク発生と同時に噛まれるのですが、なぜか彼だけは感染しないという設定。この映画は青春ものでもあるので、これはなかなか良い設定だと思います。
そして今作の悪い点は、その面白い設定を全く活かし切れていないことと、青春ものとしてもゾンビものとしてもどっちつかずで中途半端に終わっている点です。何を隠そうこの二つが、かなり致命的な傷を今作に落としている一番の要因なのです!
先ほどこの映画はテーマが面白く、オリジナリティある設定もあって面白いと言いましたが、もう見事なまでに設定の良さを活かし切れていないのです。その一番の例が、先ほども述べた主人公が噛まれても感染しないという設定。これ自体は非常に可能性が広がり面白い発想なのですが、なぜこうもこれを活かせないのかと思うほどでした。
まず、実は彼が感染しないのは主人公補正でも何でもなく、『ゾンビ化が発生する前に、たまたまもらった試薬の抗鬱剤のおかげ』という、いきなり超ご都合主義な理由付け。もちろんこの試薬、別に対ゾンビ薬として開発されたわけでも何でもありません。
しかしまあ、ここまではまだよいのです。この手のご都合主義展開は良くありますので。問題は、せっかく作ったこの設定が、劇中で全く生きていないことなのです!
その試薬を使って噛まれた人を助けるわけでもなければ、主人公が何度も噛まれながらピンチを乗り切るわけでもなく、それどころか彼は自分が噛まれても大丈夫なことを周りにひた隠しにしているので、そもそもなぜこんな設定を作ったのかが謎なレベルで無意味な設定でした。
また、先述の通りこの映画の唯一の目的は『アウトブレイク後の世界で、恋した幼馴染を探しに行く』ということなのですが、そのためにゾンビ映画として見た時に不備がいくつか出てきます。
ゾンビ化の要因については確信的な言及はなく、対抗手段(試薬)を持っていながら有効な利用をしようともせず、生きているのかも分からない幼馴染だけを探しにふらふらふらふらしているので、多少不満は残りますね。
かと言って青春映画として見た場合に面白いかというと、実はそうでもないのです。
とにかく酷いのは、探し求めていた幼馴染と再会するシーン。ここまで長ーい時間探し求めていた幼馴染と一体どんな感動的再会の仕方をするのかと思いきや、なんと家に行ったら普通に生きていたという、驚くほどあっさりとした再会を果たしてしまうのです。いや、このシーンが一番の見せ場じゃないんですか?
またそれよりも酷いのは、今作のエピローグの部分です。エピローグはまず、主人公が残り一粒となった試薬を彼女に託すところから始まります。彼によるとどうも、試薬は飲み続けなければ効果がないらしいのです。彼は、その一粒を自分が使うくらいなら、然るべき機関にそれを持ってゆく方が良いと考え、感染していない彼女にそれを託したのですね。なんとも感動的です。
さて、その途中に主人公と幼馴染が避難所に寄ってみたら、そこには彼の家族がいて、後は残り一粒になった試薬を然るべきところに持っていけば解決だ、めでたしめでたしという感じだったのですが、なんとその避難所にゾンビの大群が押し寄せ、幼馴染の彼女を残して全滅というまさかのバッドエンド。
主人公はというと、ここで普通に噛まれて再度感染し、ゾンビになる前に彼女の手によって殺されるという何とも報われない終わり方。そして彼女は、残り一粒となった試薬を研究機関に持ってゆくため、1人旅に出るのでした。
いや、明らかにおかしいでしょう。なぜここまで『主人公が幼馴染の彼女を救う』という青春テーマ一辺倒で来たのに、最後だけ『幼馴染が世界を救う』というテーマに変わっているんですか? ブレてるってレベルじゃねーぞ!
仮にそういう流れにするとしてもですよ、どのみち薬が切れて死ぬことが分かっている主人公が、彼女を逃がすためにゾンビを引き付けるとか、そういった展開ならまだ分かります。なんですか、普通に噛まれて幼馴染に撃たれるって。何がしたいんですか?
総評ですが、評価点もいくつかある分、特に終盤の致命的悪点が祟りマイナスな印象しか残らない映画でした。特に終盤、幼馴染との再開シーンや、主人公が死ぬシーンなどの雑さは、自ら見せ場を潰していると言っても過言ではないと思います。やりようによってはいくらでも盛り上がりようがあるものを、なぜここまで盛り上がらずに演出できたのか、と言いたくなってしまうほどでした。
そもそも試薬の設定も、これだけ無意味なのならない方がマシなレベルです。ピンチに見舞われる際、主人公がいかに試薬を上手く使うか、という駆け引きの部分を強調することでもっと活きてきた設定であるだけに、非常に残念に思います。
結局一番の致命傷は、最後の最後になって、それまでの『幼馴染を救う』というテーマから『ゾンビ化を鎮める』というテーマに軸がぶれた点でしょう。同じ主人公が試薬を託して死ぬ展開でも、アイ・アム・レジェンドの方が幾倍も上手く描けていました。まあ、この二つを同列で語ること自体間違いだと思いますが。
いくらでも面白くなりそうな題材であっただけに、この完成度は非常に残念です。一応終盤以外はいろいろと見どころはある映画なので、お暇な方はどうぞ。