国籍 スペイン
製作 2013
販売 アメイジングD.C.
原題 OMNIVORES
「私たちは食通を自称しているんだが、もうこの世の中にある美味といわれるものはもうすべて食べつくしちゃっ…しまったんだよ。なあ?」
まあ大体の内容はタイトルからご想像いただけると思うんですが、人を食べる話です。しかし、皆さんが思っているような内容ではないと思います(矛盾)。
レンタル版を字幕で視聴しました。日本語吹き替えはありません。まずはAmazon先生のあらすじからどうぞ。
【あらすじ】
“絶対視聴注意! ヨーロッパを震撼させた衝撃の問題作! 一流の料理評論家マルコスは、出版社から招待客だけが参加できる“秘密のレストラン””について 調査し、本を執筆してほしいと依頼を受ける。 マルコスは最初に訪れた“世界の珍味””の会食で、エバという美しい女性に出会う。 エバに誘われ一夜を共にしたマルコスは、彼女と親密になっていく。 エバの紹介で参加した2回目の会食は、日本式の猛毒フグ料理。そこで知り合いの女性記者カルラに遭遇する。 彼女は人食いを行っている可能性のあるレストランを追っていると言い、詳しい事はエバに聞くよう促す。 最初はレストランの存在を否定していたエバだったが、後日、招待状を持ってマルコスを訪れる。 レストランの迎えの車が来ると、マルコスは目隠しをして乗り込まされた。 やがて広大なお屋敷に着くと、オーナーのディマスがやってきて、レストランの説明をし始めた・・・。(あらすじ:Amazon商品ページより引用)“
ストーリー…………D
グロシーンの質……C
キャラクター………C
設定…………………C
サスペンス度………D
総合…………………D+
おすすめ度…………D
【良い点】
・シリアスな雰囲気を曲げない
【悪い点】
・パッケージ詐欺
・いらない話が多く、前半のテンポがかなり悪い
・オチまで見せ場が皆無
・そのオチも唐突過ぎて衝撃がない
グロそうと思いきやグロいシーンはほとんどないため、そういったものが苦手な方でも見れると思います。ただし、話の展開的にかなり見る人を選ぶため、合わない人にはとことん合わない映画でしょう。私は全く合いませんでした。
【以下、ネタバレ注意!】
まず最初に述べておかなければならないことは、この映画にはパッケージ詐欺が含まれていることです。パッケージには『ホステル、ムカデ人間に続く――』的なことが書かれており、またタイトルからも「グロシーンが売りの映画なのだろうな」と誰もが考えると思いますが、蓋を開けてみればそんなことは全くありませんでした。
人食をテーマにしていながら、人を捌くシーンは全カット。気が付いたら、お皿においしそうな見た目で盛りつけられているだけです。そのためグロを期待して見ると、物足りなさだけが残ります。逆に言うと、そこらのB級スプラッター映画よりも全然グロくないので、そういったものが苦手な方でも問題なく見れるとは思います。
では一体、この映画は何を売りにしているのか――おそらくですが、サスペンスというか登場人物の心情描写というか、そういったドラマ性だとは思います。
そのため、このパッケージを見て多くの方が期待するようなシーンは一切含まれておりません。とにかくグロシーンはほぼなく、あくまで「人肉を食べる異常さ」や「主人公はそれとどう向き合うか」というドラマ性重視です。緊迫感を覚えるシーンもなければ、盛り上がるシーンもほぼなし。あくまで、人肉を食べることに向かって淡々と話が進んでゆきます。
ただこのドラマ性ですが、正直描写がいろいろと雑なため、見ていても面白くありませんでした。特に、この映画最大かつ唯一の見せ場であろうラストシーンに至るまでの描写がとにかく雑です。
そのラストシーンについてですが……本当にこの映画は見せ場がそこだけなので、これを書くことはこれからこの映画を見ようという人にとってかなり致命的なネタバレとなります。しかし、この映画唯一の見せ場であるラストシーンに触れないとレビューにならないので、一応配慮策として、ラストシーンについては総評の後に述べたいと思います。このレビューを見た後に見る人がいるかは分かりませんが。
というわけで、まずはこの映画の(ラストシーンを除いた)良い点、悪い点から。
この映画の良い点は、シリアスな雰囲気一辺倒で貫くところです。
B級の食人映画というと、大体はチープで作り物感満載の人肉が出てきて笑ってしまう、というイメージがあるのですが、この映画ではシリアスな雰囲気の演出には成功しています。このての映画で『チープすぎて笑ってしまう』というシーンが(ほぼ)ないというのは、なかなかに評価できるポイントではあります。
そのため、今作ではちょこちょこ調理(直球)の関係上、男女ともに全裸にされるシーンがありますが、作品の本筋を遮るほどの邪魔くささは感じませんでした。エロシーンを多用しながらクドさを感じさせないという、非常に珍しい作品です。
しかし、食人映画の肝である人肉カットシーンがそもそも映らないという致命的な代償を支払うことになりましたが……。
そして今作の悪い点は、前半の致命的テンポの悪さ、オチまで見せ場が全くないこと、そして、そのオチ自体も唐突過ぎて衝撃がないことです。
まずこの映画、食人映画でありながらグロシーンではなくドラマ性に力を入れていると言いましたが、それにしたって前半に無関係な話が多すぎます。
一応、まだ見ぬ食人レストラン内の様子もちょこちょこ流れますが、別に大したシーンもないので飽きてくることは避けられませんでした。逆に、両方の映像が切り替わり差し替わり流れるせいで、お互いの話が全然先に進まずイライラしてくるくらいです。
また、前半は評論家の主人公が普通に料理店に行くだけ、後半は食人レストランでお食事するだけと、オチまで見どころが皆無です。とにかく淡々と話が進むため、見ていて緊張感はほぼないですね。また先述の通り、オチについては後ほど。
総評ですが、オチまで見どころがないのにそのオチ自体も強引かつ弱いという何とも微妙な映画でした。普通に生活していた人間が食人という非日常に出会う、という題材は良かったのですが、ドラマ性を重視している割に主人公の心情描写が圧倒的に少なく、まさに見どころが皆無な映画でした。
少なくとも私のように、話の核心になかなか迫ってくれない感じが嫌いだという人にはまず向かないと思います。しかし、ストーリーの軸はぶれずにシリアス一辺倒で、かなり真面目な雰囲気の作品となっていますので、そういった感じが好きだという方ならばそれなりに楽しめるでしょう。
【オチについて】
この映画のオチは『食人を楽しむレストランの経営者や客人に怒りを覚えたであろう主人公が、自分も食人の魅力に取りつかれたふりをして機会をうかがい、最終的にはまだ生きている食材(人間)にフグの毒を注入して、それを食べた異常者たちを一斉に殺す』というものです。
フグ毒で殺すというのは、実はこの映画の前半に『主人公がフグの料理店で出会った女性から食人の話を聞く』という展開があり、その際にフグ毒の説明を受けるシーンがあるので、それから持ってきたものでしょう。
この部分だけを切り取ってみればそれなりに良い出来のシーンなのですが、如何せんここに至るまでの伏線の張り方、彼がこのような行動を起こす決意をした部分の描写が褒められた完成度ではないため、私は取ってつけたような感じの印象を受けました。
『フグ料理店で出会った食人に対し、フグ毒でケリをつける』というのは洒落がきいていてなかなか面白かったと思うのですが、これだけ淡々と主人公を日常から追い詰め、かつ半強制的に主人公にも食人をさせるという反社会的な内容を描いてきた作品のオチとしては、安易な勧善懲悪に走ったものだと思います。
いや、あくまで私自身は勧善懲悪は大好きで、特に『アクション映画はベッタベタのハッピーエンドしか認めない主義』なのですが、この題材この内容で『食人者たちは報いを受けて全滅です!』というのはあまりに安直です。
しかも主人公の彼が『実際に食人を見て、経験して、追い詰められて、どうしようかと悩みぬいた結果の行動』であることが察せられる濃い描写があればまだよいのですが、そのような描写はほぼありません。食人を経験してからは、割とあっさりこのオチに向けて走ってゆきます。
個人的には、『主人公が食人を強いられ追い詰められた恐怖で正常な判断を失い「お前らは人を喰ってるんだから、自分が喰われたって文句言えないよね」と言わんばかりに食人者たちを殺し、彼らを食べて回る』というような、完全に反モラルな終わり方の方が良かったと思います。最後の最後で、『食人者たちに報いを』という部分に傾いてしまったのは残念でした。
ただし、食人者たちを全滅させる勧善懲悪展開と言いながらも、主人公はまだ生きていて助けられる人間(食材)に対して毒を使い、彼女が殺されるのは見過ごすという冷静かつ残酷な選択をしているため、悪を罰した主人公も完全な善人ではなく、狂気的な部分も感じられるという終わり方だったのは良かったと思います。
いずれにせよ、かなり人を選ぶ作品であることは間違いありません。とにかく前半はテンポが悪いので、早く核心部分を見たいせっかちな私にはまったく合わない映画でしたが、狂気に至るまでの日常描写こそしっかり見たいという方ならば、なかなか楽しめるのではないかなと思います。