絵面が圧倒的に地味。
それでは、まずは本作の基本情報、あらすじ、予告編からどうぞ。
- 国籍 アメリカ
- 製作 2018
あらすじ
フェリーとの連絡が途絶え、突然、世界から切り離されてしまったアメリカ・メイン州沖の漁村。電話もネットも使えなくなり、本土へ向かった船も戻ってこなくなる。海洋沖で何が起きているのか、島で何が起ころうとしているのか?隔絶された孤島を舞台に巻き起こるサスペンス・スリラー!
(Amazon商品ページより引用)
予告編
ストーリー | C |
キャラクター | C |
モンスターの質 | D |
設定 | C |
総合 | C+ |
良い点
- 超低予算をカバーする工夫が各所に見られるおかげで、意外と楽しめる
- 基本的に、作品全体の不穏な雰囲気はかなり良好
悪い点
- モンスターが見えない&出番も少ないため、モンスター映画的な盛り上がりを求めるとかなり物足りない
モンスター映画ですが、モンスターは出ません。いや、出るは出るのですが、姿が肉眼で目視できないという設定のため、「死体が一瞬チラッと映る以外はそのお姿をお目にかかれない」という、製作時の予算状況が察せて涙が出そうになる作品です。しかし、この手の超低予算作品としてはかなり出来が良い部類で、刺さる人には刺さる程度のクオリティはあるので、意外と掘り出し物になりうる可能性も秘めています。
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今作ですが、アマプラやFilmarks等のレビューサイトを見ても、人によってかなり評価が分かれている作品です。まあ、幸いにもその理由は明白なので、事前にこれがどういう作品なのかを知っておけば、ある程度見る見ないの判断はつけやすいかと思います。
というわけで今作は、外部との通信、航路共に完全に遮断され、絶海の孤島と化した小さな漁村に、海から姿の見えないモンスターが上陸してきて人間を襲う……という内容の、モンスター映画というよりスリラー映画っぽいテイストの作品です。それでは早速、作品の詳細を解説。
まず良い点は、作品全体の雰囲気自体は結構良好なこと、そして超低予算作品ながらに、それをカバーするための工夫がちゃんと見られることです。
まずは作品全体の雰囲気について。今作は、外部から遮断された孤島の漁村を舞台としたモンスターパニック映画ではあるものの、そこらによく転がっている、いわゆるスタンダードなB級モンスター映画とは、少しテイストが異なります。
まず前半は、漁村で様々な異変が起き始め、それに振り回され困惑するキャラクターたちの描写メインで話が進行。例えば、ここ何日も漁獲量がゼロになってしまい、冬なのに季節外れのクラゲが獲れる、という異変に始まり、本土からのフェリーがやって来なくなったり、ネットや電話が使えなくなったりなど。そしてついには、村民のものと思われる、内臓だけになった死体が発見されることに。
とまあ前半はこんな具合で、モンスターパニック映画としては結構ありがちな展開が繰り広げられるのですが、ここの部分の出来自体はかなり良かったです。小さな異変が積み重なっていき、最初は大したことない事態だと思っていた島民たちが、徐々に不安に駆られ始める。常にどことなく、静かで不穏な緊張感が漂っており、ここから話がどう動いてゆくのか、という後半の展開への期待をちゃんと高めてくれていました。ここの部分はとにかく、「何かが起きている」という異様な雰囲気の演出全振りで、しかしそれが良い、というパートでした。
その後は、残された村民が一箇所に集まるものの、そこをモンスターに襲撃される、という展開へ。ただ、普通にモンスターの襲撃を受けて、そいつらと残った村民が戦うor逃げるなどした後に、なんだかんだでエンディング、という単純な展開では終わりません。
実は、このモンスターたちには軍が目をつけており、「こいつらを兵器利用したいがために、その存在を世間に知られたくない=村民たちの犠牲は見て見ぬふりをしている」という設定を持ち出してきます。このため前半に起きた、フェリーが来ないどころか、ネットも電話も使えなくなった、という安易な離島隔絶設定に対し、多少強引ながらもちゃんとした説明を出してくれているのは好感が持てました。また前述の通り、今作に登場するモンスターは姿が見えないという設定があります。具体的には、今作のモンスターである海洋生物くん、全身が光学迷彩のようになっているため肉眼では姿が見えず、サーモグラフィー越しにしか確認できない、という仕様なのです。
これは明らかに、予算のなさを誤魔化すための施策であることは瞬時に察しがつきます。しかし、単純にそれを誤魔化すためだけに付け加えた苦し紛れの措置、というだけで終わるのではなく、この特性を持つのために軍が目をつけ、そのせいで島からの航路、通信共に隔絶され、しかも救助も来ない──という、モンスターの不可視設定を孤立した舞台設定へとちゃんとつなげているのは、なかなか工夫されていて良いな、と思いました。というわけで、良い点は以上です。続いて悪い点ですが、これは明らかにモンスターパニック映画として見ると圧倒的に物足りないことです。
今作、島で異変が起き、外部と隔絶され、そこにモンスターが登場して村民が犠牲になる、という流れ自体はよくあるモンスター映画といった感じですが、反面その中身はかなり地味。
その原因は、やはり今作のモンスターは(死体としてチラッと映る以外は)その姿を一切見せない事にあります。良い点でも述べたように、これ自体は超低予算の中でも何とかモンスター映画を撮るための工夫としては有りだと思いますが、そうは言っても見ている側からすると、やはり終始画面上に全く何にも映らない、というのは物足りなさがでかいです。最初は透明で、でもそのうち姿を現す、とかであればいいんですけど、今作はマジで最初から最後まで、ガチで一切映らないですから。
しかも今作の透明演出は、例えばプレデターなんかに代表される、「透明だが、ぼんやりと背景が歪んで見える」というような、光学迷彩特有の演出なども一切なく、本当に何もない空間に向かって役者が演技するだけ、というなかなか頑固な作り。もちろん、サーモグラフィー越しに影だけは映ったりはするのですが、やっぱ少しでいいから動いているところ見たかったな、という思いは否めないですね。
また、特に前半部分に漂う、閉塞的でじわじわと不安を煽るような雰囲気、これ自体はかなり良かったと言いましたが、その演出のために作品のテンポ自体はかなり犠牲になっており、本格的にモンスターが登場するまでにかなりの時間がかかります。少なくとも、主人公たちがまともにモンスターと接敵し、その存在を現実のものとして認知する展開に入るのは大体1時間が経過した頃。そのため「モンスターパニックが見たいんじゃ! はよモンスター見せろ!」という人からすると、モンスターは全然出てこないわ、出てきたと思ったら姿は一切見えないわ、そのまま大した戦闘もなくエンディング突入するわで、かなりつまらない思いをすることになるでしょう。このため、「低予算だから、モンスターの出番が少なかったり、出来がお粗末なのは仕方ないよね」という感性を持つ人であっても、今作はないわ、という評価になるのも個人的には充分頷けます。映画レビューサイトでの今作の評価がかなり分断されているのは、おおよそこの辺りが原因でしょうか。
というわけで総評ですが、低予算ながらの工夫はしっかりと見られ、モンスターを出せない分は孤島を舞台に漂う不穏な雰囲気の演出に力を尽くすなど、良かった点はしっかりとあります。反面、モンスターとの戦闘描写は控えめに言ってもお粗末の一言で、役者さんが何もない虚空に向かって演技する様(特にラストシーン)もなかなか残念なものがあるなど、やはり「モンスター」を期待して見ると結構ガッカリする部分が多い、そんな作品でした。「この閉鎖的クソド田舎感から繰り出される非日常な雰囲気たまらん」という人には割とおすすめですが、いわゆるよくあるモンスターパニックを期待して見ると、かなりキツい思いをすることになりかねません。
ただし、モンスターを出さない代わりに、「隔絶された島で異変が起きる」という非日常的な雰囲気周りをかなり大切にして作られているため、この手の「予算の関係でモンスターを出せない」系の超低予算映画にしては、かなり工夫して作られている方だと思います。最後に余談ですが、今作は確かにモンスターこそ出ないものの、海岸にぶちまけられた臓物の作り込みや、見えない何かに体が引き裂かれる表現など、一部スプラッター描写にはなかなか頑張りも見られるので、絵面的な見所さんもないわけではありません。まあ、人間が引き裂かれたり、ほとんど骨になるまで食いちぎられたり、モンスターに襲われて出血多量で逃げ回ったりしている割には、どう考えても血の量が少なすぎるのは少し気になりますが……。もうちょっと血糊使ってもええんちゃうかな? はたまた、その予算すらもなかったのか──
今回のレビューは以上です。お読みいただき、ありがとうございました!よければ、気軽にコメントしていってね