とにかく動画映えや話題性を気にして、番組を盛り上げることに全力を注ぐ悪魔さん。最近の悪魔も大変だな。
それでは、まずは本作の基本情報、あらすじ、予告編からどうぞ。
- 国籍 アメリカ
- 製作 2019
- 販売 ニューセレクト
あらすじ
悪魔払いの儀式を配信するやらせ番組に本物の悪魔が降臨するアクションホラー。マックスとドリューは悪魔払いの儀式を行う番組を配信し、大儲けしていた。ある日、悪魔に取り憑かれる人間役の俳優が姿を現さず、ドリューの婚約者に代役を頼むが…。
(Amazon商品ページより引用)
予告編
ストーリー | B |
キャラクター | C |
設定 | B |
総合 | B- |
良い点
- かなり変わった切り口の設定なので新鮮さがある
悪い点
- 悪魔の回りくどさが異常
- オチが読みやすいので、斬新さの割に意外性には乏しい
動画サイトで配信しているヤラセの除霊番組のエセ神父さんのもとに、ある日の放送で本物の悪魔が降臨してしまい、対峙する事になる、という設定の作品です。これだけを聞くとまあありそうな設定ではあるんですが、実はこの映画、悪魔の目的が結構斬新。これ以上はネタバレになるので下記で話しますが、ぜひ一度見ていただきたい映画です。
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悪魔降臨の際に人間どもの注目を集めたいなぁ……せや! 人気配信者のネット番組乗っ取って、炎上ネタ大量投入して同時接続数荒稼ぎしたろ! これは盛り上がるやろなぁ……
悪魔が同接数を気にする時代。お前が人気YouTuberになるんだよ!
さて今作ですが、一言で言うなら「悪魔による、炎上商法を用いた生放送盛り上げ講座」です。あらすじだけ読むと、エセ神父と本物悪魔が対決する話かと錯覚しますが、話が面白い方向に転がっていってかなり楽しめました。
それでは早速、詳細な内容を見ていきましょう。まずは良い点から。
今作の良い点は、かなり変わった切り口からの攻め方に斬新さを感じる事です。
それを解説する前に、まずはストーリーを軽くおさらい。今作はあらすじにもある通り、動画サイトで配信しているヤラセの除霊番組のエセ神父さんのもとに、ある日の放送で本物の悪魔が降臨し、対峙するという設定の作品です。それだけを聞くとまあありそうな設定ではあるのですが、実はこの映画、悪魔の目的がなかなかに斬新なのです。それは、「番組を盛り上げ、配信を見ている同時接続者数を増やす」こと。
もう少し具体的に言うと、悪魔は最終的に視聴者に向かって謎の呪文を語りかけ、それを画面越しに目の当たりにした人間を魅了し、精神を乗っ取り、そして悪魔の軍勢に加えることが目的です。この軍勢の数をたくさん確保したいがために、悪魔は配信を盛り上げて同接数を稼ごうとするわけです。そして、この配信のラスト(悪魔による呪文披露)を見ていた人は悪魔に意識を乗っ取られ、周囲の人々を無差別に攻撃し始め、この世は地獄と化す、と言うのがこの映画のオチです。
つまり悪魔は、たくさんの人間を自分の軍勢に加え、世界を混沌に陥れる手段として生配信を利用することに決め、人気の(エセ)除霊番組をジャックすることを思い付いたというわけです。そしてその目的を達成するため、悪魔はありとあらゆる手段を用いて配信を盛り上げようと画策します。
例えば、配信中にスタッフをリアルに炎上(焼死)させて注目を一気に集める、主人公のエセ神父にストリップショーをさせる、この番組の公式グッズがインチキであることを暴露させる、そしてついには、この番組自体がヤラセであることを出演者に吐かせるなど、悪魔は番組時間を目一杯使い、炎上上等の姿勢で次々に過激ネタを投入し、ありとあらゆる手段を尽くしてとにかく配信がバズることを狙います。そうして悪魔の思惑通り、生配信は各国でニュースにもなって全世界で話題となり、同時接続者数も堂々の1000万人を余裕で突破。そして、爆上がりしていく同時接続者数を満足げに眺めて悪魔はほくそ笑む……という感じ。
つまり今作は、エセ神父が悪魔と対峙してしまい、その事態にどう対処するのか、という形で進行はしていきますが、悪魔の目的がなんとなく見えてきてからは、「一体悪魔は、いかなる戦略を用いてこの配信をバズらせようとするのか」を見守り、彼があれこれ手を尽くして頑張るさまを楽しむという方向へとシフトしてゆくという、かなり変わった設定となっております。そのため、神父側の動きにだけ着目すると、悪魔に好きなようにやられっぱなしなので物足りなさを覚えるのですが、これが一転、悪魔側の動きに着目してみるとかなり面白いです。
悪魔さんが、この配信の炎上ネタの確保のために、エセ神父の過去の罪を調べ上げたり、憑依されている人物の喉からキーアイテムを取り出させて「次の暴露話のキーアイテムはこちら!」という粋な演出を仕込んできたり、また出演者同士の三角関係を調査しておいたり、ハメ撮り直前動画をいい感じのタイミングでモニターに流してきたり、さらには「視聴者からのいいねが一定数集まったら命だけはお助けしてやるよゲーム」という視聴者参加型企画を突然開催するなど、悪魔とは思えない俗っぽさ満載の内容には笑いが込み上げます。
というか、聖書にも載っているクラスの悪魔が、「おっ、出演者たちとプロデューサー、完璧な三角関係やんけ! これはいい感じのタイミングで暴露したら盛り上がるやろなぁ……w」というようなことを事前調査の段階で考えて、証拠動画を流して痴情のもつれを煽るような演出を準備している場面なんかを想像すると面白すぎるでしょ。その都度脳内で「このネタをこのタイミングで披露したら盛り上がるかな……!」とか色々プランを考え、番組進行をしていたかと思うと草しか生えない。
また、これら一見ギャグにしか見えない流れを、今作はあくまでも真剣にホラーとして処理していくのも大きな特長。この内容なら、ホラーコメディ路線でも全然やれたと思うんですが、今作は終始、悪魔も人間もみんながみんな真剣で誰もふざけておらず、しっかりと緊張感を漂わせようと努めています。これも今作の大きな魅力かと感じました。
反面悪い点としては、どうしても悪魔の回りくどすぎる作戦が気になること、そして展開が読みやすいが故に、その斬新さとは裏腹にあまり意外性はなかったことでしょうか。
先に述べたように、悪魔の目的はあくまでも「より多くの人に呪いの言葉を届ける」事だけであり、その手段として生配信を利用しているだけです。つまり、生配信を炎上させて盛り上げる事は、目的のための手段に過ぎないわけですが、その目的のためだけにこんな面倒くさいことをしているのは、どう考えても回りくどすぎます。ガチでジュラル星人並。
いや、確かに現代社会において、全世界への呪いの拡散を行うのにネットの活用は不可欠です。それに、確かに主人公は、番組開始直前の同時接続者数が20万人くらいいた事を見ても、配信者としては物凄く人気の部類でしょう。しかしだからと言って、「この配信にわざわざお邪魔しつつ、その上ありとあらゆる炎上マネジメントを施し、少ない番組時間の範囲内で世間の注目を大きく集め、平時の100倍を超える視聴者数を稼ぐ番組に1時間で成り上がらせるぜ!」という計画は、どう考えても荒唐無稽で無茶で無謀すぎます。本当に、成功したから良かったようなものの、普通に「炎上商法乙」「ヤラセ乙」で終わる可能性も充分にありますからね。
それに、この配信を普段からリアタイしているファンにとってはまだしも、たいして興味のない人からすると、「ネットで一部層に流行ってる配信番組がヤラセだった」「神父はウソツキだった」なんて暴露に加え、そんな画面越しのCGかもヤラセかも分からんような怪しい生配信など、ぶっちゃけわざわざリアルに配信を見にいくほど衝撃的で心惹かれるニュースでもなんでもないですからね。後日、ヤフーニュースとかまとめサイト見て知る程度のやつでしょ。正直、こんな回りくどいことするくらいなら、もっと数字持ってる配信者を乗っ取るなり、なんならオリンピックの開会式でも乗っ取った方が一億倍効率が良さそう。まあテレビの場合、過激すぎると本命の呪いのお言葉披露前にnice boatされるリスクはありそうですが……。
また、その回りくどさや無謀すぎる計画には目を瞑るとしても、悪魔の目的が比較的序盤ですぐ分かってしまうため、期待を裏切られるような面白さにはあまり期待できないことも弱点でしょうか。例えば、悪魔と対峙していくうちに、悪魔の目的が視聴者数の増加である事が分かっていって……と言う構成ならまだしも、今作の悪魔は召喚された瞬間から、あまりにも露骨に配信の続行、そして視聴者数の増加を気にかけています。
そして、悪魔が視聴者数を気にする理由なんて、神父に超個人的な恨みがあってその醜態を広く知らしめることだとか、もしくは自分の実力を披露する場を確保するためだとか、悪魔降臨の瞬間をたくさんの人に見てもらうためだとかの、つまらない自己顕示欲マックスな回答を除けば、大体は「あぁ、たくさんの人間画面の前に集めて、何かやろうとしてるんだな」と言う事自体は、割と序盤から予想がついてしまいます。
また、炎上プロデュース企画についても、例えば痴情のもつれを突いて仲間割れさせるというような、いわゆる身内ネタに走り出したあたりでは、番組の視聴者からも「昼ドラかよ」という至極真っ当なツッコミが繰り出されるなど、アプローチをミスってるとしか思えない部分もあり、最初から最後まで右肩上がりで盛り上がりっぱなしではない、というのも少しツラいところ。
総評ですが、「悪魔が配信を乗っ取り、炎上プロデュースを仕掛けて視聴者数を稼ぐ」というコンセプトで、終始真面目なホラー作品に仕上げている、というのは今作における大きな強みで、それに起因する見どころも多く、思った以上に楽しめる作品です。
一方、そのオチを前提として話が構成されている感が強く、ぶっちゃけ荒削りでかなり設定が甘い部分も散見されるなど、手放しに褒められた映画ではないというのも事実。特に、これがコメディ路線作品であれば「まあその辺の粗もご愛嬌だよね、コメディだし」と受け入れやすいのですが、今作の場合はあくまでもクソ真面目にホラーしてるので、そういった甘い部分が気になりやすいのは弱点でしょうか。そして、その辺が一度気になりだすと、人によっては話が入って来なくなる場合もあり得るので、広くオススメは出来ない映画です。ホラー仕立てにした事が、良くも悪くも作用している作品かなと思います。
とはいえ、珍しい切り口からの仕掛けが楽しめる良作ではあると思いますので、個人的には結構おすすめ。気になられた方はぜひどうでしょうか。
今回のレビューは以上。読んでくれてありがとう。よろしければ、お気軽にコメントしていってくださいね!