「どんな映画にも、きっと良い点がある」をモットーとして、主にB級映画のレビューや紹介、おすすめ等を淡々と書いてゆくブログです。

アンデッド・ドライバー 怒りのゾンビロード のレビューです(総合評価C)

(画像:Amazon商品ページより引用)
 
悪くはないんですが、いまひとつ盛り上がりに欠けるゾンビ映画のレビュー、はじめます

これ誰だよと思ったらケイン・コスギだった。

それでは、まずは本作の基本情報、あらすじ、予告編からどうぞ。

  • 国籍 タイ
  • 製作 2019
  • 販売 竹書房

あらすじ

ゾンビに制圧された世界で、わずかな人類はコミューンを作って生活していた。コミューン内で治安維持を担当するザ・ドライバー(マーク・ダカスコス)は妻と娘とともに静かに暮らしていた。しかし、コミューンの支配を目論む仲間が殺戮を開始。その混乱の中、ゾンビも乱入、妻を殺されたザ・ドライバーは、ゾンビや裏切り者と戦って娘とともに愛車のBMWで脱出することに成功する。しかし、自身もゾンビに咬まれて人間でいられるのはわずかだった。限られた時間の中、娘に戦いの術を教えつつ、「安息地」という伝説の地を求めて旅を続ける。

Amazon商品ページより引用)

予告編

ストーリー
キャラクター
ゾンビの質
設定
総合

良い点

  • 中盤の盛り上がり
  • 地味な題材の割に、全編通して飽きずに見られる

悪い点

  • 各要素がことごとく絶妙に残念でいまひとつ盛り上がらない

 最初に言っておきますが、邦題からはさぞアクション盛り盛りな作品なのかという印象を受けますけど、ハッキリ言って滅茶苦茶地味です。ゾンビもそんなに出てこないので、邦題に釣られて派手なアクションに期待した場合は死にます。まずはそこだけご注意ください。

 
ここから先のレビューには、ネタバレを含む場合があるわ。未視聴の方は注意してね。
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 怒りのデスロードももう5年以上前の映画なんですが、そろそろ釣りタイトルに使うのやめませんか……?

 さて今作ですが、派手なカーアクションもない上に、後半は娘と2人のロードムービーが主体という地味目な作品であるにも関わらず、「車乗るなら実質マッドマックスだな!」と脊髄反射で邦題決めた邦題詐欺映画です。はいはい知ってた知ってた。

 では早速、詳細な内容を見てゆきましょう。まずは大まかなストーリー紹介から。

 さて今作ですが、前後半で結構印象が変わる映画です。前半は、ゾンビ蔓延る荒廃した世界で、コミュニティを形成する人々の暮らしとその崩壊に至るまでを描くパート。そして中盤以降は、生き残った主人公と娘が2人で「安息地」と呼ばれる場所を目指し車で移動する、ロードムービーちっくな構成となっております。かつ、ロードムービー部分は基本的に車移動がメインで、激しいカーアクションがあるわけでもなければ、暴徒やゾンビとの戦闘も申し訳程度にしかないため、とにかく絵面的には地味。この後半パートはあくまで、ゾンビに噛まれた主人公が、娘に生き残るための技術(銃の使い方、運転の仕方など)を教えることを通して親子のやりとりや心情を描く、というのがメインとなります。

 そんな今作ですが、明確にここが良くてここがダメ、というよりは、軒並みの要素に良い部分悪い部分がそれぞれ混在してる感じの作品なので、各要素を順番に見ていきましょう。

 それでは、まずはキャラクターから。今作は前半、主人公の所属する生存者コミュニティの紹介がメインで、その中で主人公はどんな立場で、他にどんな人々が暮らしてるのかなどが描かれます。そのコミュニティ内には、例えば明らかに小物な悪党とか、過激で偉そうな憎まれリーダー、主人公が信頼する2人の仲間など、ちょっと一癖ありそう、かつ今後の動向が気になったキャラクターもチラホラ見られます。
 かつ、廃工場に建設されたコミュニティ自体はかなりの規模で、大人から子供まで様々な人々が暮らしている、という設定。そのため、ここの建設に至った経緯とか、コミュニティ外の世界に暮らす生存者(レイダー)との関係、やりとりだとか、ここでの人々の生活環境だとか、描き込めばなかなか面白い展開が生まれそうな土台は感じました

 ただ残念なことに、このコミュニティは詳しい紹介も早々に、一夜にして暴徒とゾンビの襲撃を受けて崩壊、それ以降ここで登場したキャラクターは、主人公と娘以外一切出て来ません。そのため、このコミュニティで紹介されたキャラクターたちは、どんな思想や背景を持つどんな人物なのか、それすらもよく分からないままに、在庫処分セールの如くボンボコ死んでいきます。まあ、この前半部分自体が、後半から始まるロードムービー部分の前振りでしかない、ということは分かるのですが、これはちょっと勿体無いかな、と個人的には感じました。キャラが一気に死ぬこと自体は全然構わないんですけど、ここはもうちょっと掘り下げてもよかったのかな、と思います。

 さらに、後半に突然、その辺で生息していた女戦士2人組が雑に加入するイベントがあるんですけど、これもまた良くない。個人的にはこの2人の存在が、今作1番の萎えポイントにも挙げられるくらい。これについては、ストーリーの項目で詳しく解説します。

 次、ゾンビとアクション関連ゾンビについてはメイクの質自体は悪くなく、顔の爛れなどをはじめ、結構よく出来ています。また、暴徒を相手取ったアクションシーンも、B級作品にしてはかなりしっかりとアクションしており、なかなか質が高い
 特に中盤、生存者コミュニティ内に暴徒とゾンビが侵入し、三つ巴の乱戦が展開される部分はかなりアクションの出来が良く、アクションシーン的な意味では間違いなく今作一番の見所ポイントとなったほど。主人公が暴徒相手にキレのあるアクション決めていくシーンは、結構興奮しました。

 反面ここには、悪い部分も。まずゾンビですが、これが鈍くもなければ素早くもなく、早歩き程度の微妙な速度で迫ってくる事が多いため、なんともやる気を感じず脅威不足。かつ、撃たれても血がまるで出なかったり欠損描写がなかったりと、これまた緊迫感に欠ける調整。これはちょっと痛いですね。
 対人間描写についても、アクションの質自体はなかなか高いものの、まともに対人戦を繰り広げる展開は中盤の一度だけしかない上、肉弾戦に反して銃撃戦のクオリティはかなりお粗末なのも気になります。ちゃんとモデルガンを使い、撃った時にマズルフラッシュやブローバックしてる描写もきちんとあるんですけど、反面、露骨に銃を撃つフリしてるだけのシーンとかが多かったのは気になりました。かつ、そもそも後半パートは戦闘自体が少なく、中盤の盛り上がりを超えるほどの戦闘描写もなかったため、ここに期待していた方は後半キツかったのではないでしょうか。

 そして最後、ストーリーです。まず大前提として、前半コミュニティ紹介〜崩壊、中盤以降はロードムービーという若干変則的な構成であるため、人は選ぶでしょうが、全編通してそこまで悪くはありませんでした。前半と後半で見所さんとなる部分は大きく変わるものの、どちらもそれなりに見所はある、という具合です。

 まずは前半の、コミュニティの紹介とその崩壊に至るまでの部分。ここは正直、期待感を高める前座としての役目は十分で、面白そうなキャラ含めて在庫処分のごとくさっぱり殲滅させる潔い展開と、魅せるアクションシーンでなかなか盛り上がります。しかし、やはり前半30分で紹介から崩壊まで済ませてしまうので、描き込み不足な部分は目立ちました。その点含め、ここは良くも悪くも、後半のロードムービーに話を進めるための前座的扱いに留まる、と思った方が良いでしょう。

 そして肝心、中盤以降のロードムービー部分について。実は主人公、コミュニティ内での戦闘で既にゾンビに噛まれており、あと1日もしない命だということが確定しています。しかし、その前に何とか娘だけでも「安息地」と呼ばれる場所に無事送り届けたい、その一心で車を走らせる──娘には、噛まれた事実は黙って。そのため、娘に銃の使い方を教えたり、車の運転をレクチャーしたりするシーンが入り、それら交流を通じて親子のやりとりを描く、というのが後半の、ひいては今作のメインパートとなります。

 この後半部分については、映画の半分以上を占めることもあり本作の見所となる部分なのですが、ここの設定と雰囲気自体は結構好きでした。もう時間が残されていない父が、自分の持つ技術を伝えてなんとか娘を助けたい。その一心で、今、出来るだけのことをする。目の前で妻を亡くし、そして自分の死も見える絶望の最中において、ただ娘のためだけに、という切なさ。それがなかなか良く出せていたと思います。

 なんですが、この後半パート、問題が二つほど。一つ目は、結局父から教えられた技術がたいして娘の生存の役に立っていないこと。そしてもう一つは、安易なお助けキャラの加入です。

 まず一つ目。前述の通り、父は自分に残された時間で出来る限りのことをするため、娘に簡単な訓練を施します。自分が途中で倒れても、娘が1人で安息地に向かえるように、銃の扱い方と運転の仕方を教えるのです。何ですけど、いかんせん彼に残された時間はだいたい半日、長くても一日もありません。そんなごく短時間で、これまで銃も車も触ったことのない12歳のド素人相手に教えられる事なんて限りがありすぎるため、そもそもコンセプト的にかなり無理がある

 もちろん今作はフィクションなので、教えられた娘は異様な飲み込み速度で、数十分程度の訓練で即座に動く標的相手に弾を当てられるようになりますが、それはそれで上達速すぎて違和感がすごい。しかも、結局主人公は安息地目前まで彼女を守りながら行動しますし、彼亡き後も、娘には先述したようなぽっと出の露骨な戦闘要員2名が付き添いで守りに来てくれるため、娘は銃で戦闘に参加こそするものの、終始誰かに守られっぱなしな立場を卒業できていません。結果、主人公が時間を削って教えた貴重な技能が、彼女の生存、ひいては両親を亡くした彼女の自立に役立ち、心身の成長に繋がったかというとそうでもない、というのはイマイチ白けるポイントでした。特に、主人公が倒れた後も戦闘で頼れる2人が側にいる、というのは、結局彼女の保護者役が父親からこの2人に変わっただけなので、この旅を通して得た彼女の成長を発揮する場がこの2人に奪われており、結果もう1人の主人公であるはずの彼女が全然魅力的に映らない、というのが何とも残念。

 もちろん、今作のメインは技術の継承による娘の戦闘技能開花にあるわけではなく、そのやりとりを通して父子の心情や繋がりなどの描写をすることがメインだから、この際技術が活かされるか否かはたいして関係がない、というのは重々承知です。ですが現状だと、結局その訓練の成果も全然生かされないまま、なんか成り行きで進んでいったら露骨なお助けキャラは加入するわ、都合よく安息地から助けは来るわで何となくエンディング、という雑な感じになっちゃっており、それがどうにも盛り上がりを阻害しているように感じます。

 そんな展開にするくらいなら、下手に短時間で銃の使い方とか教えるんじゃなくて、例えばゾンビの習性から分かる回避方法だとか、逃げるときに役立つ知識だとか、そういう非力な12歳の娘にふさわしい、極力戦闘を避けて生きる術とかを教える展開の方が良かったんじゃないかと思います。終盤に父が死んだ後も安易にお助けキャラ加入させるんじゃなくて、娘が父から教わったそれを発揮して1人だけで生き延び、無事1人の力だけで安息地にたどり着く、的な展開にすれば、娘の成長もちゃんと描けるし、コミュニティ唯一の生存者としての存在感も出せ、父の死を乗り越えてしっかりと自立したキャラとして描ける。父から受け継いだ技術がちゃんと生きて、そのおかげで1人でも安息地にたどり着けました、的な展開になり、父の死も報われる、と良いことづくめだと思うんですが──どうでしょう? もう最後の方は、私個人の「こうして欲しい」が多分に含まれた話になっちゃいましたが……。

 というわけで総評ですが、全然悪い作品ではないです。むしろ、期待していたよりは面白かった部類。ストーリー、キャラクター、ゾンビや戦闘、軒並みの要素にきちんと良い部分があり、特に後半は地味目な題材の割に飽きさせずしっかりと見させてくるところなど、なかなかやりおる、と思った部分も多々。

 反面、どうしても各要素に不満が残るのは残念なポイント。特に、主人公と娘の交流を描いていたはずが、お助けキャラを安易に加入させたせいで娘の見せ場が奪われている展開が個人的1番の残念ポイントでした。
しかも、

 ゾンビに囲まれてピンチ
→お助けキャラ参戦
→再びゾンビに囲まれてピンチ
→安息地からの救援参戦

と、似たような展開が終盤に続いたのもいただけないですね。

今回のレビューは以上です。お読みいただき、ありがとうございました!
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