「どんな映画にも、きっと良い点がある」をモットーとして、主にB級映画のレビューや紹介、おすすめ等を淡々と書いてゆくブログです。

シライサン のレビューです(総合評価C)

(画像:Amazon商品ページより引用)
前半は割と良かったけど後半は微妙、というホラー映画にありがちなパターンのやつのレビュー、はじめるわ。

事故物件以上、こどもつかい未満。

公式ページがあったので、リンクを貼っておきますね。

それでは、まずは本作の基本情報、あらすじ、予告編からどうぞ。

  • 国籍 邪魔大王国
  • 製作 2020
  • 販売 松竹

あらすじ

始まりは、ありがちな怪談話。薄暗い通りを歩いていると、鈴の音とともに不意に現われ、どんどん近づいてくる異様に目の大きなシライサン。“それ”は自分の名前を知っている者を次々と襲う。新たな標的は、この怪談を聞いてその名を知ってしまった者たちだ。
親友の突然死のショックから立ち直れない女子大生・瑞紀(飯豊まりえ)は、弟の変死に直面した青年・春男(稲葉友)と真相を探るうちにシライサンの話に行き当たる。その名を知ってしまった彼らもまた、呪いからは逃れられなかった・・・・。

Amazon商品ページより引用)

予告編

ストーリー
キャラクター
ホラーの質
設定
総合

良い点

  • 前半のホラー描写のレベルはなかなか

悪い点

  • シライサンの使い方があんまり良くない
  • 後半のストーリーはじめ、細かい不満が募る

 何でこう後半余計なことしようとするかな、という最近のジャパニーズホラーにありがち案件です。シライサンの造形はじめ、ホラーのレベル自体は悪くはないのですが、やっぱり後半が……。

 
ここから下のレビューには、ネタバレを含む場合があります。未視聴の方はご注意ください!
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 シライサンだんだんお茶目に見えてくるんだよな(大問題)

 さて今作ですが、シライサンという目がデカイ女の霊に取り憑かれたら、彼女が定期的にやってきて、格闘戦の間合いまで接近を許すと問答無用で眼球炸裂拳を放ってきて即死する、というホラー映画です。ちなみに、シライサンに呪われる条件は、「彼女の名前を知ること」という驚異のハードルの低さなので、このレビューをここまで読んだ時点であなたももれなく呪われています。お憑かれ様でした。シライサンの到着を神妙に待て。

 それでは今作の詳細な内容に入るのですが、その前に一つだけ。基本的にホラー映画は、人によってかなり評価が分かれます。理由は単純で、ホラー耐性がどの程度あるのかによって、ホラーシーンの楽しめる度合いにかなり個人差があるため。
 基本、ホラーは怖い=面白いなので、「ホラー描写が一切刺さんなかったから微塵も面白くなかった」というのはよくある話。だから今作も、私はホラーのレベルはまあまあに感じましたが、これがまるでダメだった場合、「微塵も怖くない駄作」と言うポジションに落ち着く可能性は十分にあり得ます。現に今作、ホラー描写の質を除いては、かなり微妙なラインですからね。
 ちなみに私なんですが、ホラー耐性ほぼ皆無です。事故物件の前半部分でガチビビりをし、こどもつかいのタッキー不在シーンでブルってたレベル。多分、映画館で呪怨とか見たら心不全で死ぬタイプ。その程度のホラー耐性の人間から見たレビューだと言うことをご承知の上で、以下のレビューをどうぞ。

 では、前置きが長くなりましたが、まずはサクッと良い点から。今作の良い点は、シライサンの造形はじめ、ホラー描写のレベルはなかなかの水準にあると言うことです。

 やはり今作ホラー映画なんで、まずは何を差し置いてもホラーの出来については気になるところだと思います。そしてこの部分に関しての出来は、少なくとも前半部分は上々。「名前を知ったら死ぬ」という、昨今のネット社会においてはあまりにゆるゆる過ぎる条件により呪われた主人公たちが、その呪いを解くべく奔走する、と言うストーリー。
 前半はシライサンの正体についてもはっきりと判明しておらず、登場方法も鈴の音を響かせて暗い通路にひっそりと佇みながら、しかし目を離すと少しずつ近づいてくる、というミステリアスで不気味な雰囲気を漂わせておりなかなかgood. 暗い通路に女の人影、と言うだけでもかなり不気味な組み合わせですが、それが視線を合わせるたびに少しずつ接近してくる、というのは、少々ベタながらもなかなか悪くありません。まあ、眼球破裂演出のチープさは別として……。

 またシライサンの造形についても、これまたシンプルながら結構悪くない。一言で言うと、「目が異様にデカいだけの女の人」なので、近年のホラーとしてはかなり没個性でありきたりではありますが、こういう「一見普通の人間と変わらないが、身体のワンポイントだけが異様」というシンプルな造形は感覚的、生理的に嫌悪感を感じやすいため、変にあれこれ凝るよりもかえって良かったりします。このシライサンについてもそうで、人間とかけ離れ過ぎていないが、しかしどう見ても異様、というこのデザインは、割と正解の気がしました。少なくとも、初見で見た時は結構不気味で怖かったです。初見で見た時は。

 他にも、これは好みも分かれるポイントですが、オチは結構好きです。今作のオチは、主人公とともに呪いを解くべく奔走していたヒロインが、頭を打った衝撃で記憶を無くしてしまう、というもの。先に述べたように、シライサンに襲撃される条件は「名前を知ること」なので、記憶を無くした時点で襲撃対象から外れます(これを裏付ける伏線も有)。かつ、ヒロイン以外にシライサンの名を知るものは、行方不明含め全員死亡しているので、国内に彼女の名を知るものはいなくなり、一旦は平和が訪れた、というオチ。

 しかし、ヒロインの記憶喪失については一時的なものであるため、おそらく近い将来、彼女はシライサンのことを思い出すでしょう。そうすると、そこからまたシライサンの呪いが始まるわけです。つまり、ヒロイン自身がシライサンの呪いを復活させる時限爆弾として機能しており、それが爆発するまでの間は一時的に偽りの平和が訪れている、という、何とも不穏な終わり方。これ自体も、別段目新しさはないものの、いい意味でスッキリしない終わり方で私は好きですね。

 とまあ、良い点はこんなもんです。続いては悪い点を。今作の悪い点は2つ。1つは、シライサンの使い方。そしてもう1つは、後半のストーリー展開です。

 先ほど、シライサンの造形はじめホラー描写はなかなか良い、と申し上げましたが、同時に「初見で見た時は」怖かったと言ったのを覚えておられますでしょうか? そう、シライサンは「目がデカい」というシンプル過ぎる造形ゆえに、初見だと生理的嫌悪感を掻き立てられるのですが、2度、3度とそのお顔を拝見していくと、段々と慣れてくるんですな。

 これは持論なんですが、シライサンに限らず、造形がシンプルなホラー創造物一般に関して、シンプルな怪物は異様な点が単純で分かりやすい分、初見のインパクトは結構あるんですけど、何回も見ていくうちにすぐ見慣れちゃうんですよ。だからこそ、何度も何度も起用する時は出現パターンを変えてみたりとか、動きに複雑さを持たせたりだとか、他のポイントでバリエーションを出して視聴者を飽きさせないようにするべきだと思うんです。

 ですが今作、シライサンの襲撃方法についてはかなりのワンパターンで、先に紹介したように、暗闇に佇んで視線外したら近づいてくるだけ。かつ、登場前には鈴の音が鳴るとか、電灯がチカチカするとか、何かしらの前触れがあるため、ご丁寧にも来ることが事前に分かってしまうんです。そのため、不意打ち気味に登場してビックリ、というのもほぼなし。
 かつ、彼女に対しては「視線を外さなければその場を動けないため、近づいて来られない」という明確な対策が存在するのも緊迫感を薄れさせるポイント。しかも、彼女の呪いを受けた人物が2人以上その場にいれば、誰か1人でもシライサンを見ていればOK、とこれまた難易度が格段に下がり、その場面では緊迫感や恐怖感も大きく減ります。これらの理由により、中盤の顔面ドアップお披露目という最大の見せ場シーン以降、恐怖感はどんどん薄れていく

 もちろん、シライサン側もそれに対して何の対策もしていないわけではありません。例えば、死者の霊を召喚して声をかけさせ、相手の気を引いて視線を外させようとするだとか、電車が通る瞬間を狙って踏切に現れ、強制的に視線が外れる瞬間を作るだとか、対策に対策を重ねてきます。しかし、シライサンがそういう対策を施して来れば来るほど、シライサンが自分の弱点を克服しようと何とか頑張っている姿に健気さを覚えるというか、知恵を絞って努力する様が人間臭く映り親近感が湧いてきたりだとか段々彼女のことが可愛く見えてくるんですよね。目以外は普通に美人だし、動きもちょっと面白いし……ホラー的な部分だけを見れば、完全に努力が裏目に出ているタイプ。これはホラーとしてはちょっと。

 このように、後半はシライサンに抱く恐怖感が格段に薄れていく、と言う問題があるのですが、これに加えてストーリー展開も残念な部分が目立ちます。主人公たちが一度シライサンの襲撃を乗り越えてから、話はこの呪いを解くためにシライサンのルーツを探る方向へと本格的に移行していくのですが、この探索パートの出来があまり良くない。主人公たちが欲しい情報は、ほとんど苦労なく、むしろ向こうから飛び込んでくるくらいの勢いで簡単に手に入ってしまいますし、そうして分かったことと言えば、文献からシライサンの発祥が分かったことくらいで、結局呪いを止める方法については何にも分からず仕舞い、というホラーにありがちな丸投げエンド

 いやー、せっかく途中で「シライサンは3日に一度、しかもランダムに誰か1人の元にしか現れないのだから、いっそネットに名前ぶちまけて呪いを広めれば、自分が襲われる確率格段に減るんじゃね?」という外道仮説が出てきたんだから、いっそそれを実行してみせるくらいぶっ飛んだ終わり方でも良かったと思うんですよね。先ほど、記憶喪失オチは好きと褒めましたが、終わり方としては「シライサンの名前ばら撒いて日本国民総呪殺対象エンド」の方が圧倒的に見応えありますからね。いやーやって欲しかったなーばら撒き。

 と言うわけで総評ですが、まあ前半はシライサンの謎に包まれた不気味な雰囲気や、シンプルな造形から来る直感的嫌悪感なども相まってなかなか楽しめたんですけど、やはり後半からの失速が痛いですね。何より、シライサンの行動がワンパターン過ぎて、怖さが加速度的に失われてしまうことと、その代わりにストーリー展開で魅せられれば良かったんですけどそれも中途半端で微妙、という感じ。近年のジャパニーズホラーとしては頑張っている方だとは思いますが、お勧めしたいほどの作品ではなかったです。

追記
 このレビューを書き終わった後、ネット上でとある意見を見かけました。それは、「今作の脚本は、作中で行方不明となった間宮冬美が書いたものである」という言説。調べてみたところ、どうやら今作のエンドロール中に「脚本 間宮冬美」という記載があるため、「シライサンの呪いにより行方不明となった間宮冬実が実は生きていて、作中にも触れられていた『呪われている対象の母数を増やせば、自分の元にシライサンが来る確率が格段に下がる』という対処法を実行するために、今作の脚本を書き、映画化させて日本中にその名をばら撒いたのだ」という事らしいのです。

 そこでエンドロールを見返してみたんですけど──確かにね、ありましたよ。「脚本 間宮冬美」の文字が。
 あったんですけど──いや、見てもらうか。それがこれです。

 なんだこれ分かるわけねーだろハゲ!

 いや、これがさ、例えばエンドロールの1番最初とか1番最後とかの目立つ場所にポン、だとか、その他の場所に仕込むにしても明らかにこの部分だけ目立つように配置して、とかじゃなくて、なんでちょうどエンドロール中盤とかいうただでさえ分かりにくい場所に、しかも他の記載に紛れ込ませる形でポツン、と置いてあるだけなんだよ! 大体、間宮冬美ってただでさえ作中サブキャラ同然の影の薄い人物で、エンドロールに至るまで名前覚えてる事自体それなりにハードル高い扱いのキャラなのに、こんな森の中に木を隠すみたいな出し方で伝わるわけねーだろ! こんなん分かるわけねーだろボケ!

 とにかく、これに則ると、記憶喪失オチが持っていた「シライサンの存在を広めるでも消し去るでもなく、コールドスリープさせたに近い時限爆弾みたいなオチ」という、良い意味でスッキリしない良さが完全に消失してしまうことになるため、私としては大変気に食わない設定ではあります。こんな回りくどい拡散のさせ方するんなら、普通に作中でネットにばら撒いて阿鼻叫喚エンドの方が100倍良かったと個人的には思う。
 ですがまあ、監督的にはおそらく、「気付く人が気付いたら面白いおまけ要素」程度の、ある種裏設定的なネタ要素に近いと思うので、これをもってレビューや評価内容を変えることはせずにおきます。

今回のレビューは以上。読んでくれてありがとう。
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