サメ映画に情熱を燃やす男たちの熱い物語(史実)
レビューに入る前になんですが、この怪作がまだ日本にやって来る前の頃、これを発掘し、配給会社に売り込みをかけ、そして自ら翻訳して字幕版を作成し、私たち消費者の元に届けてくれたサメ映画界の狂人偉人こと、サメ映画ルーキー氏に感謝を。
ねとらぼさんの紹介記事のリンクも置いておきますので、ぜひこちらも併せてどうぞ!
それでは、まずは本作の基本情報、あらすじ、予告編からどうぞ。
- 国籍 アメリカ
- 製作 2019
- 販売 コンマビジョン
あらすじ
夢見がちな兄ジェイソンは、子供時代に兄弟で執筆したサメ映画の脚本を携え、仲違いしていた弟マシューのもとを訪ねる。
(Amazon商品ページより引用)
しかしとある不思議な魔法の力で彼らの脚本が現実化してしまい、本当にサメに襲われてしまう事態に。
「サメ映画のお約束」が次々と兄弟に降りかかる一方、ネット経由で知能を獲得したサイバー・ジョーズは人類に対する反逆を企てていた…!
予告編
ストーリー | C |
キャラクター | C |
サメの質 | C |
設定 | B |
総合 | C+ |
良い点
- 激安CGを逆手に取った天才的なアイデア
- 意外にもストーリーの軸はしっかりしていて楽しめる
悪い点
- サメ映画好き嫌い関係なく、とにかく人を選ぶ
「クソ映画に登場するクソCGのサメが、現実世界に現れる」というコンセプトの時点でかなり強烈ですが、それに加えてデッドプールよろしく第4の壁を突破してくるキャラクターが存在することなど、かなりメタ要素が強く、相当人を選ぶ映画であることは間違いありません。
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クソCGのサメを作る予算しかないのなら、「クソCGのサメ」というモンスターを登場させればええやん! という、まさに天才の発想。
さて今作ですが、あらすじなどをご覧頂ければ分かる通り、一風どころか十風くらい変わり種のサメ映画です。B級サメ映画といえば、竜巻に乗ってきたり幽霊になったり、砂浜泳いだり家に出てきたりと、とにかく謎特殊属性を盛られまくっている他、予算の都合からかそのCGクオリティが絶妙に低いことももはやお約束となりつつありますが、今作はそれを逆手に取る発想を持って作られた、まさに怪作。
それでは詳細なレビューに入っていくのですが、先に一つ、注意事項を。今作は、言わばメタ・B級サメ映画とでも呼ぶべき作品となっているため、ある程度B級サメ映画に関する事前知識があること前提で話が構成されています。とは言っても、あらゆるサメ映画あるあるてんこ盛りのパロディ映画、という感じではないため、私のようにB級サメ映画なんて両手で足りる程度しか見ていないサメ映画にわかでも十分楽しめる作品にはなっておりますが、さすがに「サメ映画ってジョーズ1とディープブルー1くらいしか見たことねぇわ」という方にはお勧めできません。普通にサメが市街地に出てくるし、CG雑だし、挙句サメが喋り出して昨今のサメの扱いにご立腹な描写など、かなりメタいところにまで踏み込んでくるため、多分話についていけない、ないし面白みが分からないかと思われます。まあ、多分そんな人は、この作品自体目に触れることはなさそうなので大丈夫かとは思いますが……。
それともう一点。後述しますが、今作はその構成上、かなり人を選びます。それは、メタフィクション要素がてんこ盛りであることも理由の一つなのですが、「サメ映画をどれだけ愛しているかによって、見え方が違ってくるから」というのも理由の一つです。それこそ、今作のバイヤー兼字幕を担当されたサメ映画ルーキー氏のように、サメ映画の発展に人生を捧げておられるような方から見た場合と、私のようにB級モンスター映画の一環としてサメを嗜む程度の人間とでは、今作視聴に対する覚悟が違います。なので以下のレビューについては、特段サメに対しては強い思い入れなどはない、一般B級映画ファンから見た場合のレビューである、と言うことをご承知の上、読み進めていただくと幸いです。まあ、サメ映画ガチ勢の方は、こんなレビュー読む前にすでに視聴を終えておられるでしょうから、ヨシ!
マジで前置きが長くなりましたが、それでは早速内容を見ていきましょう。まずは良い点から。
今作の良い点は、とにかくそのコンセプトが素晴らしいこと、そして、以外にもストーリー展開がしっかりしており、不覚にもちょっと感動させられる点です。
もうコンセプトについては、散々ご紹介してきたのでしつこいと思いますけど、いやでもこの強烈な個性こそが私に500円払わせてアマプラで今作を見させるに至った1番のポイントなので、言わないわけにいかない。近年のB級サメ映画といえば、シャークネードの大ヒットからも見られるように、「サメ+〇〇」という、言わば組み合わせゲーと化しているところがありました。つまり、サメに何か付加価値となる独創的な個性をつけて、それを売りにしよう、という流れがあったわけですね。
もちろん、ステイサム主演のMEGやロストバケーションなどのように、予算が潤沢にあってクオリティの高い映像を撮れる映画の場合はちょっと話が別ですけど、そうではない映画、つまり予算に乏しく、サメ自体のクオリティを低くせざるを得ないB級作品については、この流れが一般的だったように思います。その結果何が起きたのかと言うと、ご存じの通りCGクオリティが終わってるゲテモノサメ映画が世に溢れたわけですね。そしてそんな流れを受け、「ならいっそ、『CGの質が低い』という部分こそを個性として売り出しちまえばいんじゃないか?」となったのが今作です。
もちろん既存の作品でも、例えばフランケンジョーズなどのように、(おそらく)あえて雑なCGを採用して、それを笑いどころとして作品の売りとする映画はちらほらありました。言わば、「サメのCGがクソ」というやつです。しかし、今作はそこからさらに一歩踏み込み、「クソCGのサメ」という全く新しいモンスターを生み出しました。これこそが、今作と既存のB級サメ映画との最大の差別化ポイントであり、まさに今作が革新的な理由なのです。
つまり、今までのクソCGのサメ映画は、登場人物たちの視点からすると、目の前にいるのは紛う事なきリアルな恐ろしいモンスター、という前提があるので、彼ら自身はそのCGクオリティについて言及することは出来ませんでした。あくまでサメがクソCGなのは制作側の都合であり、作中の登場人物がそれに言及してしまうと、それはメタ要素となってしまうからです。つまり、彼ら登場人物が見ているモンスター像(リアルな造形)と、我々視聴者が見ているモンスター像(クソCG)の間には、制作都合のCGクオリティがもたらす乖離があると言うことになります。
ですが今作の場合は、「クソCGのサメ」というのがモンスターの特徴であるため、キャラクターたちはその雑な質感について、メタ要素なしに好きなだけ言及できる。なぜなら、彼らの前に現れるのは紛う事なきクソCGのモンスターそのものであり、彼ら登場人物が見ているモンスター像(クソCG)と、我々視聴者が見ているモンスター像(クソCG)が、CGクオリティに関わらず完全一致するからです。だから、その質感を揶揄して笑いどころにすることもできるし、逆に「クソCGのサメ」というモンスターをあくまで真面目に、恐ろしいモンスターとしてシリアスに扱うことすらできる。例えサメのCGが雑だろうが、レンダリング中表示が出て時々フリーズしようが、明らかに画面上から浮いていようが、バグろうがデザイン時のXYZ軸表示がそのままになってようが、もう何をしたって「だってそういうモンスターなんですもん」で押し切れると言う、まさに天才的な発想。これを褒めずにいられようか、いや、ない(反語)とまあ、このコンセプトこそがやはり最大の特長であることは間違い無いと思うのですが、これに加え、そのふざけたあらすじとは対照的に意外とストーリー展開が熱く見応えがある、と言うのも今作の特徴。何より、主役である兄弟のキャラクター性と、彼らが織りなす展開が良い。
幼少期に「サメ映画を作る」という同じ夢を目指した兄弟が、まあ色々あって離れ離れに暮らしていたが、ある日一緒に住むことに。しかし大人に成長した2人の間には、大きな溝が。兄は幼少期の夢を捨てず、サメ映画作成に向けてひたすら突っ走ってきたが、弟は現実主義で、そんな夢などとうに捨てて社会人として働いていた。そんな中、幼少期に描いた脚本が具現化すると言う事件に巻き込まれます。事態の解決に向け動き出す2人ですが、やはりその思想の違いゆえ衝突し、一度は決裂。ですが、危機を前に再び合流し、その中で現実主義者の弟は、かつて兄と夢中になって創作に勤しんだ日々を思い出し、心に燻る熱い感情を燃え上がらせる──
まあ、結構展開を好意的に解釈し、話を盛って書いた気もしますが、概ねこんな感じです。この、アホだけど子供の頃に見た夢にとにかく純粋でまっすぐな兄と、夢など捨てて現実に生きているつもりが、心の隅ではやはり夢を捨てきれていない弟という、2人のキャラがなかなか良いんですよ。その2人の純粋な、創作に対する熱意とかが伝わってくるのも熱かったです。そしてラストシーンの、兄が用意してきた手描きクソダサポスターが、この映画のパッケージ絵が描かれた立派な映画ポスターにすり替わっていた、というシーンで目頭が熱くなる。熱くなったかな? なった気がします。
とまあ、だいぶん長くなったので、良い点はこのくらいにしておきましょう。こんな具合に、良い点はしっかりある今作ですが、反面悪い点、と言うよりも、人によってはどうしても気になる点が。
最初にこの映画は、かなり人を選ぶと言ったのを覚えておられますでしょうか。それは、今作がメタ・B級サメ映画としての要素を過分に持ち合わせているから、というのも理由なのですが、それ以外にももう一つ──実は今作には、第4の壁を突破できるキャラクターが紛れており、その彼がことあるごとに、メタい言動を取ってくるのです。言い方を変えると、彼が映画内の一登場人物としての枠を超え、我々観客に向けて語りかけてくる描写がすごく多いのです。
例えば、最初の犠牲者が出るときにひょっこり現れて「最初の犠牲者だ」と教えてくれたりとか、主人公たちと会話している途中に、カメラに向かって何か話してきたりだとか、とあるシーンを勝手に早送りしたりだとか、説明シーンを省く代わりにおっぱいを映してくれたりだとか、とにかく彼が絡んでいる間はかなりメタフィクション要素が強くなります。しかも、映画の中盤には彼の独占コントコーナーを5分間ほど勝手に放映したりなど、もうやりたい放題。
こう言うメタフィクション要素って、それ自体が結構人を選ぶ手法であり、嫌いな人はマジで嫌いな印象を受けます。それも、ちょっと視聴者に向けて一言だけ、とかではなく、映画の全編にわたり、これだけやりたい放題してくるとなると、サメ映画好き嫌いに関わらず、この時点で無理な人は無理でしょう。かつ、彼が第4の壁を突破して仕掛けてくるコメディ描写については、(特に5分間のコントを筆頭に)無駄に長かったり、クドかったりするため、個人的にはかなり邪魔に感じる部分も多く、冷める場面も多々ありました。
良い点でも褒めたとおり、この作品は「メタ要素を扱わずとも、クソCGのサメをキャラクターたちに好きなだけ揶揄させることができる」という利点も兼ね備えているため、必ずしもメタフィクション要素は必須では無いと考えます。なので個人的には、こう言う第4の壁突破要素は抜きにして、あくまでも「クソCGのサメと対決する真面目なストーリー」として作って欲しかった、というのが所感。
ですが、この部分については良い悪いと言うより、完全に個人の好みの問題になってくるので、決して「メタフィクション要素があるからダメ!」というわけではありません。もちろん、これがあったからこそよりこの映画を楽しめた、という方も多くいらっしゃることでしょう。
なのですが、ただでさえメタ・B級サメ映画という人を選びまくるジャンルであることに加え、これまたそれなりに人を選ぶ「メタフィクション要素」というのをふんだんに盛り込んだ結果、さらに敷居が高くなっている感は否めません。
サメ映画がとにかく好きというガチ勢の方でも、メタフィクション要素が嫌いであれば、今作にハマりきれない可能性があるというのは、頭の片隅に留めておいても良いやもです。もちろん逆に、メタフィクション要素歓迎と言う方の場合、今作の良くも悪くも唯一無二な内容が盛大にブッ刺さり、2度と忘れられない映画になる、という可能性も秘めているだけに、一長一短だとは思います。
まあなんにせよ、こんなサメ映画という割とニッチめな需要の中から、さらにターゲットを絞って狙い撃ちするかのような調整になっているため、そりゃあ60以上の映画祭で上映拒否されたという逸話にも納得がいくとは思いました。まあ、これが理由かどうかは分かりませんが……。さて総評ですが、すでにコンセプトの時点で面白く、また内容自体も一発ネタにとどまらず意外とちゃんと作られているため、結構好感の持てる作品でした。ストーリー展開も、創作に対する情熱が伝わってくるなかなか熱い内容となっておりますので、B級サメ映画ファンの方であれば、一度見てみて欲しい作品となっております。
反面、かなり強烈なメタフィクション要素にはじまり、人を選ぶ要素はてんこ盛りなので、ご自分の趣向等々と相談して視聴を決定されると良いかと思います。確実に、合う合わないがかなり強烈に存在する作品なので、人の評価はあんまりあてにならないというのも難しいところ。最終的には、君自身の目で確かめてみてくれ! としか言いようがない。有料ですが、アマプラでレンタルすれば見られるため、リリースされたばかりのこの機会に、よろしければどうぞ。
今回のレビューは以上。読んでくれてありがとう。よろしければ、お気軽にコメントしていってくださいね!