「どんな映画にも、きっと良い点がある」をモットーとして、主にB級映画のレビューや紹介、おすすめ等を淡々と書いてゆくブログです。

プリズン・ルーム のレビューです(総合評価D-)

(画像:Amazon商品ページより引用)
「2時間もかけて言いたいことこれだけ?」ってなること必至のシチュエーションスリラー映画のレビュー、はじめましょう

 面白くないのはこの際100歩譲っていいとして、ガッツリ2時間はマジで勘弁してくれ──せめて90分でまとめて……

 それでは、まずは本作の基本情報、あらすじ、予告編からどうぞ。

  • 国籍 フランス
  • 製作 2016
  • 販売 ニューセレクト

あらすじ

ニューヨークの高級アパート。スーパーモデルのキャンディスは、ある夜突然、侵入者の気配を感じる。だが既に彼女は自分の部屋に閉じ込められていた。脱出も外部との連絡も不可能。そこにチャットで接触してきたのは“マダム・ハリウッド”と名乗る謎の犯人。画面に映し出されたのは、狭い壁の隙間に全裸で監禁された親友ルネの姿。『これから出すミッションをクリアしなければ、親友が死ぬことになる』。恐怖のゲームが始まる…。

Amazon商品ページより引用)

予告編

ストーリー
キャラクター
設定
総合 D-

良い点

  • やりたいことはストレートに伝わる

悪い点

  • あまりにも脚本が酷すぎて主人公に全く感情移入できない
  • 物語構成がヘッタクソすぎて言いたいことがストレートに入ってこない
  • 2時間かけてやる内容じゃない

 率直に言って、テーマが薄いだとか緊迫感が伝わらないだとか主人公アホすぎるだろとか言いたいことは山ほどあるんですけど、何よりもとにかく構成がヘッッッッッッッタクソすぎるだろ! こんなんじゃ内容伝わんない&伝わっても響いてこないんだよ心によ!

 
ここから下のレビューには、ネタバレを含む場合があります。未視聴の方はご注意ください!
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 こんな10年以上前に夜8時からのバラエティ番組で見たような使い古されたテーマで2時間まるまる使おうと思った度胸だけは認めたい。

 さて今作ですが、「あー言いたいこと全部言えた! いやースッキリ!」って監督の声が聞こえてきそうな典型的オナニー映画です。言いたいことをキャラクターに言わせるのに気を取られるあまり本筋の構成が雑になりすぎているせいで、肝心の視聴者の心には全く響かないタイプ。

 それでは早速、今作の詳細な内容を見てゆきましょう──なのですが、先に一つ注意点を。

 今作は基本的にシチュエーションスリラー映画の皮をかぶっているのですが、前半1時間と後半1時間で、かなり毛色の違う作品になります。そのためレビューについても、いつもの良い点悪い点を挙げる形式ではなく、前半と後半それぞれの特徴と感想を述べる形式でお届けさせていただきます。それでは早速、前半からいきましょう。

 今作の前半はよくあるシチュエーションスリラーです。簡単に申しますと、トップモデルの主人公がタワマンの自室に監禁され、人質である友人の命を盾に犯人から出されるミッションに挑戦させられる、というよくあるやつですね。
 率直にこのパートの感想を申し上げますと、微塵も面白くありませんマジでつまらないよくまあここまでつまらなくできるなってくらい面白くない。そうなっている明白な理由が、2つあります。

 1つ目の理由は、主人公の頭が悪いこと。これは大変シンプルながらも、緊張感を1番の売りとするシチュエーションスリラーにとっては割と致命的な問題。この主人公ちゃん、例の如く謎の犯人に監禁され、友人を人質に取られた状態で、カメラ越しに幾つかの指示を出されるのですが、その間とにかく犯人の指示に逆らおうとします。具体的には、座れと言われているのに壁越しに物音が聞こえるとすぐ壁をバンバン叩いて「助けて!」連呼したり、外部と連絡を取る方法を何か思いつくと監視下にも関わらず即行動に移し、挙句監視カメラぶっ壊そうとするなど。結果、犯人は怒って人質の友人を痛めつけ、それを見た主人公が「ごめんなさい」する。この流れをですよ、一度や二度ならず、前半から何回もしつこくかましてくるんですよ。

 いや、普通こういうのって、カメラの死角で見えないようやるとか、犯人に従うふりしてコッソリやるとか、そういうもんじゃないんですかね? 人質まで取られているのなら尚更。そしてだからこそ、「これバレたらやばいよな」と見ている側にも緊張が走るものだと思うのですが──それなのにこのアホ、めちゃくちゃ堂々と助けを呼びまくり、そのたびに必然友人が酷い目に遭うだけなので、そこには緊迫感や緊張感など微塵もありません。そして、これが1回とかならまだいいんですけど、しつこく何回も繰り返し見せつけられるので、流石に見ていて「こいつあえて友人殺させようとしてへんか?」と疑いたくなる。シチュエーションスリラーである以上、視聴者は彼女を通して緊迫感や緊張感を感じることとなるため、その重要なキャラがアホというのは思った以上にキツいです。

 そして2つ目の理由。こちらこそが本題なのですが、とにかく構成が下手すぎて、主人公の感じている絶望や緊迫感をまるで共有できないことです。これはもう本当に、1つ目の理由が霞むレベルで致命的。具体的に申しますと、今作は状況設定こそよくあるシチュエーションスリラーよろしく、監禁された主人公が犯人から無理難題を出され、それに挑戦させられる、という形をとっているのですが、その無理難題な要求というのが今作は物凄く特殊

 例えばSAWシリーズなんかが代表的ですが、普通、こういう映画での犯人から出される要求って、「自分の身体を傷つける」とか「自分の手で誰かを殺す」とか、そういう「誰が見ても本能的にやりたくないと思うこと」ですよね。ですが今作で出される要求は、こういうのではありません。映画の前半には犯人から課題を4つ出されるのですが、それを今から列挙します。

  1. チョコレート食べる
  2. フライドチキン食べる
  3. 髪を切る
  4. 身体に焼印を入れる

 一応断っておきますが、ここでいうチョコは実は毒入りだとか、チキンにクソが塗られていて生理的に食えないだとか、髪短くしたら死ぬとか、そんな特殊な設定は一切ありませんガチでチョコとチキン食わされて髪切らされるだけです。

は?

 と思ったそこの正常なあなた。まあ身体に焼印はいいとして、問題は他の3つですよね。もの食うだの髪切るだの、いったいこれのどこが無理難題なんだよと思われたことでしょう。むしろ、俺なら喜んでチョコでもチキンでも食うんやが? と思われた方もいるでしょう。

 ここで思い出して欲しいのが、主人公はトップモデルであるということなのです。つまり、スタイルや髪というのは彼女にとって超絶大事な商売道具であり、彼女の自信そのものなのです。恐らく、これまで激しい減量に耐えてきた彼女にとって、また綺麗な髪を1番の売りとして活動している彼女にとっては、このチョコ食うやら自慢の髪を切るやらの指令は、友人の命を引き合いに出されてもなお実行を躊躇うくらい苦痛で絶望的な要求らしいのです。らしいのですが、今作の構成のヘッタクソなところは、その感情に説得力を持たせるための描写を何一つ入れてくれないことなんですよ。

 前述したように、例えばSAWに代表される一般的なシチュエーションスリラーでよく使われるような、自傷行為要求や他者への攻撃要求などの「人間誰もが本能的にキツいと感じる要求」というのは、それがどれだけキツいことなのか、いちいち説明する必要はありません。例えば「自分の足を切り落とせ」って言われたら、その言葉だけで誰だって「いや無理キッツ」って本能的に分かりますからね。

 ですが今作のように、チョコ食うだの髪切るだのというような「他の人には平気でも、その人にとってはこの上ない苦痛に感じる要求」というのは、それがどれだけ酷な要求なのかという事をちゃんと作中で説明する必要があります
 例えば、モデルを目指す幼少期の主人公は、他の子が好きなものを食べているのを見ている傍ら、自分だけはサラダとかササミとかばっかり食べて体重コントロールをし、チョコや揚げ物なんかは何があっても絶対に口にせず、毎日厳格なカロリー計算のもと食事制限をし、そんな生活を1日も欠かす事なく、甘いもの、脂っこいものを食べたいと言う欲求を殺して、何年も何年も何年も続けてきた。継続が大事と言うように、ただの一度でも暴食してしまうと栄養バランスが崩れ、何年もの努力が完全に水の泡になり、これまでの自信を喪失して、最悪自分のモデル生命は絶たれるかもしれない。だから彼女は、何があってもチョコなんて絶対に口にしない。
 上の文は私がクッソ適当に考えただけなので実際のところは知りませんが、例えば最低限これくらいの説明をされて初めて、見ているこちらとしては「チョコを食う」という指令がどんだけ彼女にとって残酷でヤバい事なのか、というのが理解できるわけです。3番目の髪を切るって指令もそうで、彼女がモデルをやっていく上でどれだけ髪を大事にしてきたか、という事や、一度髪を切るという事は、髪質の変化などもあって二度と今と同じ髪には戻らないんだぞ、的な事を示してくれてはじめて「な、なんて残酷な指令なんだ……」と思えるようになるのです。そこまでやって初めて、この何でもないかに見える指令の残酷さが理解でき、主人公に対する共感や同情が芽生え、彼女の感じる緊迫感や絶望が伝わってくるんですよ。

 ですが今作、いったい何を考えているのか、その辺に対する説明描写は皆無と言ってよいです。マジで開幕にサラッと「彼女トップモデルなんでーす」という情報が入るだけ。彼女がモデルにかける熱意だとか、食事制限、髪の手入れなどにどれだけ命をかけているかという描写、皆無です。
 さらに、フライドチキンの件については、彼女は自称ベジタリアンという説明台詞が入り、そのためもあって「こんなもの食えるか!」という流れになるはなるのですが、そもそもベジタリアンには色々な種類があります。自身の栄養管理のためにやってる人もいれば動物愛護目的でやってる人もいるわけで、その目的に応じて肉食わねぇ事に対するマジ度が全然違うんですよ。週一なら肉OKとか比較的ライト寄りの人もいれば、肉食うくらいなら自殺する方がマシ、というレベルまで到達している人もいるので、主人公にサラッと「私ベジタリアンだし」と言わせただけでは、これまた肉食うことに対する精神的苦痛が全く伝わりません

 こんな具合に、今作はトップモデルだのベジタリアンだのの上部の設定だけはサラッと説明はするものの、そこからさらに踏みこんで、彼女の感じる苦痛に説得力を持たせるための描写が皆無です。だから必然、この要求の残酷さが視聴者に伝わりません。「友人の命がかかっていても、この要求だけは飲みたくない!」という彼女の必死さがまるで伝わりません。そしてそうなると、シチュエーションスリラーとしては終わりです。先に述べたように、このタイプの映画は主人公が感じる絶望や緊迫感を共有する事こそが醍醐味なので、それが理解できない=無価値と言っても差し支えありません
 まあもちろん「こんなのわざわざ説明されなくても、私には彼女の気持ち、分かるぜ!」という人は楽しめるかもしれません。しかし、人間誰もが本能的に感じる嫌悪感を扱っていない以上、この説明不足は致命的です。少なくとも私は、理解はできるけど共感はできないという状態に陥ったため、まるで楽しめませんでした。この部分については本当にヘッタクソというか手抜きというか……。

 とまあ、前半部分はこんな感じで、「分かる人には分かるかも」というレベルの出来しかない。ハッキリ言って映画としては下の下。あまりにも構成が雑すぎ。そしてこんな虚無の時間を1時間強いられた後、物語は次の展開へ進みます。

 後半は何があるかと言うと、いよいよ監督が伝えたい、この作品のテーマに突入。実はこの事件は同じモデル仲間が起こした事件だったわけですが、重要なのはその目的。有り体に言うと犯人側の目的は世直しで、世の中のモデルに対する歪んだ認識を改めさせるために起こした事件なんだとか。滅茶苦茶かいつまんで説明すると次の通り。

 世間の女の子たちは、みんな自分たちのように、細くて可愛いモデルに憧れる。けれど私たちモデルだって、広告やSNSの言いなりになり、出資者の望むように修正され、本当の自分を偽って生きている。業界人からの要請であれば、レイプまがいの枕営業されたって声も上げられない。しかも、そんな自分達の偽りの部分だけを見て、世の少女たちは無理な減量をして身体を壊してまで細身神話に取り憑かれている。痩せても痩せても、もっと痩せろと心の声が聞こえ、常に怯えて生きてる。そんな世の中はおかしい! 私たちは声をあげる!
 まあ、好意的に解釈すれば大体こんな感じです。

ここで一言。

 前半1時間ヘッタクソな共感皆無の虚無押し付けて、そのあとさらに1時間引っ張ってまでやりたかった事がこんなクッソ使い古されたテーマなのかよ!

 いやもう今作の後半の感想は本当にこれに尽きる。いやほんま、なんかこれをすごい嬉々として「モデル業界の闇! みんなが思ってるほどモデル界はきらびやかな世界じゃないんだよ!」って感を出してきてますけど、こんな話モデルやら芸能界やらに微塵も興味ない私ですら、どこかで耳にしたことあるような話ですよ。それこそ細身のモデルに憧れて拒食症になった少女が云々、なんて話題、私が小中学生の時に世界仰天ニュースだったかなんかで見たことあるわ、ってくらいずっとずっとずっと昔から言われ続けている事ですし、枕やら業界人の言いなりになってるやらの話だってつい最近どころかはるか昔からしょっちゅう耳にする話題ですよ。よくまあこんな週刊誌でやりそうな話題捕まえて2時間持たせようと思ったな

 さらに酷いのが、まあこのテーマを選んで映画を撮ろう、となったところまでは1000歩譲っていいとして、なんで前半やることがデスゲームまがいのモデルいじめなんだよ、という事です。トップモデルの主人公捕まえて、チキン食わせたり髪切らせたり焼印入れさせて商品価値下落させるのを強要するだけしておいて、半ば無理矢理モデル界の闇を暴露させるようなスピーチ主人公に書かせるような展開を見せられて、それ見てなんで視聴者が「うわぁ、モデル界ってこんなに闇が深いんだ! 主人公も大変な思いしたけど、これで世界が少しでも変わるといいね」って好意的な受け取り方してくれると思ってんだ脳みそお花畑かよこのハゲ。
 結局主人公は最初から最後まで犯人に行動を強要されてるだけ。肝心のモデル界の闇を暴露するスピーチをする展開すらも、自殺未遂するレベルまで精神的に追い込まれてズタボロになったところに無理矢理モデル志望拒食入院少女と引き合わさせられて、犯人の筋書き通りに仕向けられて踊らされてスピーチしてるだけで、どこにも自分で考えてこの世界を変えよう、モデル界を変えていこうっていう積極的な主体性が見当たらない。だから展開も主人公も魅力的に映らない。
 どうしてもこのテーマを伝えたいのなら、普通にトップモデルの主人公が細身神話に影響された拒食少女と出会い、それに過去の自分の影を重ねて、自分の中でずっと抱えていた業界に対する違和感が大きくなっていき、ついに告発に至る、的な設定の方が、まあ滅茶苦茶ベタではありますが確実に心に響く展開にはなったと思いますよ。
 
 そして、この前半と後半を比較して思うところは、前半のテーマはモデル界隈やダイエット界隈にそれなりに興味がないと共感できないという構成にしておきながら、後半の展開はモデル界に微塵も興味ない人ですらどこかで聞いたことがあるようなうっすいお説教がテーマになっているという、このギャップ。これがあるせいで、「結局何がしてえんだこの映画」となっちゃってるんです。このため今作、前半は楽しめたけど後半は無理もしくはその逆ないしどっちも無理、大体の人がこの3種類のうちどれかに該当することになるかと思われます。全部好きだったという方、いらっしゃったらごめんなさい。

 まあ、やりたかったことだけは伝わってはくるんですけど、テーマ云々以前にまずは面白くすることを念頭に撮った方が良いでしょう。そもそも本編が面白くないと、どれだけ素晴らしいことをおっしゃられても全然響かないからね。まあ今作の場合、その「言いたいこと」自体も別に大した内容ではないという二重の問題もあるわけですが。

今回のレビューは以上。読んでくれてありがとう。
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