「どんな映画にも、きっと良い点がある」をモットーとして、主にB級映画のレビューや紹介、おすすめ等を淡々と書いてゆくブログです。

ブラッド・ブレイド のレビューです(総合評価B-)

(画像:Amazon商品ページより引用)
 
ギャグ寄りハイテンションお馬鹿ゾンビコメディかと思ってみたんですが、滅茶苦茶真面目すぎて逆にちょっと引いちゃったゾンビ映画のレビュー、はじめます。

パッケージ、タイトル、あらすじ、何一つ嘘は載ってないんだけど、なんか騙された気分。

それでは、まずは本作の基本情報、あらすじ、予告編からどうぞ。

  • 国籍 カナダ
  • 製作 2019
  • 販売 TCエンタテインメント

あらすじ

最強の戦士達VSゾンビクラスタ! !
感染者が生ける屍となり人間に襲いかかる謎のウィルスが大流行し、滅亡の危機にある世界。奇跡的に強力な免疫を持つ一部の人々だけが何とか生き延び、リーダーのトレイラーを中心として居留地<レッド・クロー>に生存者と物資を集めて集落を形成していた。
一見平穏な日々を過ごす生存者達であったが、免疫を持たない””よそ者””に攻撃的な派閥や、出産を間近に控える妊婦の存在など、彼らには課題が山積みになっていた。
ある日、3名の生存者が集落に助けを求めて逃げ込んでくる。トレイラーは受入に反対する息子ライソールを無視して彼らを迎え入れることにするが、この決断が集落を地獄に変え、生き残りを懸けた壮絶な戦いを招く事になるとは知る由もないのであった…。

Amazon商品ページより引用)

予告編

ストーリー
キャラクター
ゾンビの質
設定
総合 B-

良い点

  • ゾンビのクオリティが高い
  • 内容に動きもあるため飽きにくい

悪い点

  • やりたいことは分かるけど(日本人には)いまいち伝わらない
  • エンタメ感が希薄な部分があり人を選ぶ

 内容についてはどうしても合う合わないがあるので、私からは視聴前に一言だけ。今作、パッケージのノリだけを見て「頭を空にしてもワイワイ見られるB級ハイテンションゾンビコメディかな?」と思って見ると、あまりの真面目さと内容の重さに落胆する可能性があるため、とにかくそれだけ気をつけてください。内容的には結構面白いは面白いのですが、アメリカの人種差別という社会問題が根底のテーマにあったりするので、どうにも日本人にはちょっと理解し難い部分もあると思います。

 
ここから先のレビューには、ネタバレを含む場合があるわ。未視聴の方は注意してね。
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 ホッケーマスク、日本刀持ったジジイ、変なアックス持ったオッサン──うーん、このお祭りバカ映画感、最高!
 と言うノリで見ると、そこから飛び出す人種差別をテーマにした社会風刺やら、かなり生真面目な内容やらとの気圧差で死にますので気を付けてください。
 これはこれで面白かったけど、違うんや……俺はもっとこう脳死で楽しく見られるゾンビコメディが見たかったんや……。

 と言うわけで、再三の注意喚起も済んだところで、早速今作の詳細な内容を見ていきましょう。まずは良い点から。

 今作の良い点は、動きのある飽きにくいストーリー展開、魅力的なキャラクター、そして何より、ゾンビのクオリティが相当高い事です。

 まずストーリー。今作は話の流れだけを見れば割とオーソドックスなゾンビ映画で、ゾンビの発生、そしてそれが町全体に広がるアウトブレイク描写から始まり、コミュニティ内での人間同士の対立に重きを置きつつ話が展開していく、という構成の映画になっております。

 まずは序盤。ここはゾンビ発生前の町が舞台。警察署長である主人公が、彼の同僚や家族と暮らす中で、少しずつ異変が広まっていく様子、そしてある時を境にして町が完全に機能を停止し、死者が徘徊する地獄へと変貌する様子が描かれます。日常に少しずつ異変が広がる不気味で不穏な様子を、主要人物の紹介などを交えながら展開するこのパート。ゾンビの発生と、それによる病院の機能停止、町の停電によるインフラの崩壊などを緊迫感を持って描いており、先の展開への期待もあって結構楽しく見られます

 そして中盤、話はそこから6ヶ月後へ。ゾンビパンデミックはおそらく世界中に広がり、町は荒廃して生存者たちは郊外に小規模なコミュニティを形成して暮らしていました。また、人類の中にはゾンビ化に対する完全な抗体を持つ者が一定数いることが分かり、主人公も抗体を持っています。しかし、一見平和に見えるコミュニティ内は、抗体を持たない者を受け入れるか否か、を主軸とした意見対立が起きており、ここからは登場人物同士のドラマがメインに。ここでは、ゾンビの出番が控えめになることもあって、絵面的な見どころはかなり限られます。エンタメ的にはここは大きく失速するポイントですが、幸いにもキャラクターの魅力にも支えられ、割と見ていられるのは救い。単純につまらない部分というわけではなく、この不穏な空気とかギクシャクした人間関係、水面下で陰謀が進むような雰囲気は、好きな人は好きだと思います。

 そして、後半はいよいよコミュニティが崩壊、内部にはゾンビが蔓延り、生存者たちは集落を捨てての非難を余儀なくされます。またゾンビへの対処だけでなく、思想の違う人間同士の対立が決定的になるのもこのパートで、対ゾンビ、対人間どちらの部分においても話が大きく動きます。ゾンビの出番も一気に爆発し、キャラクターたちも日本刀ジジイや主人公を筆頭に見せ場も大きく増えるため、絵面的にもエンタメ的にも見どころ満載。言わばこの映画の華となるパートなので、純粋に楽しく見られました。

 こんな具合に、序盤、中盤、終盤、それぞれの部分において結構見所となる部分が異なり、盛り上がる場面はきっちりと盛り上がるため、基本的には飽きずに見ていられました。中盤のドラマメインパートはゾンビの出番も少ないのでかなり怪しい部分もありましたが、そのままコミュニティに引きこもって終わり、というわけではなく、終盤はちゃんとゾンビの見せ場もキャラの見せ場も用意してくれたので良かったと思います。

 そしてこの飽きないストーリーを支える根幹となるのは、何と言ってもゾンビの出来の良さ。この映画のゾンビのクオリティ、ハッキリ言ってかなり高いです。ここまでしっかりしたゾンビ、結構久々に見たな、ってくらい。

 何が良いって、1番はゴア表現。例えばゾンビを撃ったり切ったりした時に、部位欠損を誤魔化そうとする作品が割と多いんですけど、今作はその点完璧ですね。
 頭は吹き飛ぶわ潰れるわの大盤振る舞いで、内臓は飛び出す、手足は欠ける、襲ってくるゾンビも顔やら足やら潰れている個体も多くて、血も多量、かつ変にCGっぽさや安っぽさがなく、とにかく映像的な見応えが高い。単に顔とか服に血を塗って妥協するような姿勢は一切なく、かなり拘って作られているのが分かります。動作的にも結構本気で襲いかかってくるため緊張感もあり、総じてゾンビ関連、戦闘関連の出来は大満足でした。

 と、こんな感じで素晴らしい部分は多々ある映画なんですけど、その点かなりクセの強い部分があり、そこがネックになってきます。それこそが、この映画のテーマともなっている人種差別問題への風刺がガッツリ効いている事です。

 先ほどあらすじを紹介する中で、今作にはゾンビ化への完全抗体を持つ人々がいる、という話をしましたが、その人々というのがアメリカ先住民、通称インディアンなんですよ。この映画ではなぜか、インディアンの血が濃い人々はゾンビ化への抗体があるため噛まれても平気で、逆にファッキン白人どもはゾンビ化に対してクソザコナメクジ という設定があります。そのため今作では、コミュニティを形成する主導権を握るのは主にインディアンで、そこに白人どもも入れてあげている、という構図があるわけなんです。

 つまり今作においては、力関係が『インディアン>白人』であり、この構図を持ち出したいがために『インディアン=抗体持ち』、『白人=抗体無し』という設定が付与されている。つまり今作は、表面上はゾンビ化に対する抗体のあるなしによる対立を描いてはいるものの、やってることは実質インディアンと白人の対立、というかクソザコナメクジの白人アメカスどもの処遇を巡って対立するインディアンという、民族差別、人種差別問題を根幹に置いた作品なのです。そしてこの部分というのが、ぶっちゃけそういう問題は世界史か現代社会の教科書レベルの知識しか持ち合わせていない一般日本人的には結構キツいところがあります。いやキツいというか、イマイチ伝わらないというか、端的に換言すれば単純にあんまり面白くない。特に今作中盤のドラマパートなんかは、この辺の話がメインなので余計に。

 これさらにキツいところが、この社会風刺っぽい部分が途中でちょろっと入るだけ、とかなら問題ないんですけど、先に紹介した通り、今作は抗体持ちか否か、というストーリーの根幹に関わる部分にこれがガッツリと絡んでいます。そしてそうなれば自ずと、抗体の有無を理由に対立する登場人物たちの思考の根底にはこの問題が絡んでくるわけで。現に、主人公から見ると敵役に当たる人物の行動回路には、これがガッツリと反映されています。自らコミュニティ内にゾンビ招き入れて壊滅させ、その後も登場人物たち、とりわけ白人の妊婦を執拗に狙おうとする彼の行動があまりに過剰、というか過激すぎて私は引いちゃったんですが、これもなんかその辺の社会問題に詳しい人から見れば説得力のある行動に映るのかもしれません。

 さらにさらにタチが悪いのが、ぶっちゃけ今作を見る人の大半はこういう話を期待して見てないだろう、って事なんですよね。例えば、今作にはインディアンと白人の対立構造に踏み込んだ社会風刺が云々、ってことがあらすじとかにガッツリ書いてあるのであれば、そういうのを期待して見る人の割合が多くなるので問題ないと思うんですけど、今作はパッケージもタイトルもあらすじも、どう見てもそんな事関係なさそうなノリ、なんなら頭を空にしても楽しめそうな感じの雰囲気が出ちゃってますからね。何一つ嘘はついてないんですけど、なーんかこう「思ってたのと違う……」ってなる。嘘はついてないんですけどね、嘘は。
 まあ、日本で「インディアン問題を題材にしたゾンビ映画」ってコピーで売っても絶対売れないですからね。そんな売り出し方されてたら興味ない私なんかは絶対見ないでしょうし、売り出し方としてはこれで正解なんでしょうけど──

 そしてさらに辛いのが、この辺のインディアン問題の基本的な知識は持ってるよね、って前提があるからか、今作はその辺に対する描かれ方が結構雑、というか端折り気味なんですよ。だから、登場人物たちにイマイチ共感ができず、私のような日出づる国の者から見るとあんまり乗れない、楽しみきれない、って感じに。この傾向は特に中盤のドラマパートで顕著なので、この部分が苦痛に感じた、という人は多いのではないかと思います。救いなのは、そのあとはちゃんとゾンビの襲撃が増え、絵面的な見所が増える事でしょうか。もしこれがなくて、コミュニティ内の対立のまま映画は終わり、ゾンビはおまけ、みたいな構成だったとしたら、相当キツかったと思います。

 というわけで総評ですが、とにかくゾンビのクオリティとゴア表現の出来が良い。そしてそのおかげで、ゾンビとの戦闘が盛り上がる序盤や終盤は特に楽しく見られるため、基本飽きずに見ていることができる良作です。ただし、中盤のドラマパートは絵面的にも地味で、イマイチ理解し難い部分、共感できない部分もあるため、ここで興味がサッと引いていく可能性が高く、素直に「最初から最後まで全部面白いよ!」とは言い難い作品というのも事実。少なくとも、頭を空にして楽しめるお祭り映画、という感じでは全くないので、そこだけは注意が必要です。

今回のレビューは以上です。お読みいただき、ありがとうございました!
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