国籍…… アイルランド、スウェーデン、ベルギー
制作…… 2019
まずは今作のあらすじ&予告編からどうぞ。
【あらすじ】
“絶望の大海原で、生き残るのは誰だ… 人付き合いが苦手な、海洋生物学の学生であるシボーン。彼女は博士号の取得の為、漁船に乗り込み、深海生物の調査に出る。 乗船したニーム・キノール号の船長・ジェラードは船員のギャラを払うのにも困っており、大漁を求めて、航海禁止ゾーンに船を向ける。 しかし、その航海禁止ゾーンで船が突如、動かなくなる。船底では、木の腐食が始まっており、崩れた木の奥からは見た事もない生物のようなものが! このままでは浸水するかもしれない。船長は潜水の得意なシボーンに船底を調査するよう指示、彼女が見たものは巨大な生物の触手が船底を覆っている姿だった。 巨大なイカと判断したクルーたちは、ウィンチを使って、その生物を引きはがそうと船上に集合、しかし、船内にはもう一つの危機が迫っていた…(あらすじ:Amazon商品ページより引用)“
ストーリー……B
キャラクター…B
設 定………C
・ストーリーに次々と動きがあり飽きさせない
・キャラクターに魅力がある
・全体的に話の内容が中途半端な部分が多い
・モンスター映画じゃない
パッケージを見ると大体の人がモンスター映画という印象を抱くと思いますが、モンスター映画じゃないです。船上で起こる謎の感染症とそれに対する対処がメインで話が展開していくので、期待したものと大きく違った、というガッカリ感は否めません。しかし、ストーリー内容事態は割としっかりしており、またキャラにも魅力があるため、人は選びますがなかなかの良作であると思います。
【以下、ネタバレ注意!】
海洋大型モンスターバトルアクションムービーはどこ……ここ……?
さて、では早速今作の良い点悪い点……を見てゆく前に、まずは今作最大の問題について触れる必要があります。
先程から何回か申し上げていますが、今作はそのタイトル画像を見ての通り、もう誰がどう見ても船上で海底から迫る謎の大型モンスターとの対決を描いたバトルムービーにしか見えないんですが、これそう言う映画じゃないです。このモンスターも出てくるは出てくるんですが、今作での脅威として描かれているのはこの大型モンスターの幼体、体長わずか数ミリ〜数センチくらいしかない寄生体が対象で、パケ絵の大型モンスターはこの幼体を船に産み付けていくくらいの出番しかありません。実際話の大半は、船内に解き放たれた寄生体が引き起こす感染症との戦いがメインとなっております。
つまり今作はモンスター映画に見せかけて、その実態は寄生体による感染症対策啓発映画となっているのです。この部分を知らないと、「いつモンスター出てくるんや……」となること必須。俺みたいにな!(前情報無し視聴被害者)
では、それを踏まえた上で、今作の良い点悪い点を見てゆきましょう。まずは良い点から。
今作の良い点は、ストーリー展開事態はなかなかしっかりしていて面白いと言うことと、キャラクターになかなか魅力があると言うことです。
まずはストーリーについて。前述の通り、今作はモンスター映画に見せかけた密室パンデミックものなんですが、大型モンスターが出てこないことはさておいて、ストーリーライン自体は結構よくできています。
巨大モンスターとの接触後、船内に広がっていく違和感をまずは描き、そこから船員の異常行動の発症、そして寄生虫による船員の死亡で一気に緊張感を高める。そこから話は、船内の水道管に入り込んだ寄生虫への対処へ。全員で協力して寄生虫の排除を試み、それがひと段落した所で、今度は港への到着後、船員はすぐに船を降りるべきか、船内にとどまるべきか、という論争が巻き起こります。「負傷した仲間を救うためにもすぐに船を降りるべきだ」と言う乗員の人命第一の船員たちに対し、海洋学者の卵であるヒロインは「未知の感染症を上陸させるわけにはいかない。全員陰性が確認できるまでは船内にいるべき」と感染症の封じ込め第一の提言をする、と言う感じですね。
このように今作では、ストーリーが「大型生物との接敵→船内に広がる寄生虫への対処→未知の感染症の封じ込め」とどんどん移り変わっていくおかげで、約90分間、興味を持って飽きずに見続ける事ができました。モンスター映画であると言う期待を裏切られてガッカリした反面、「こういう方向に話がいくのか」と良い意味でも期待を裏切られたため、個人的には総合的にはプラス評価と相成りました。
というかこの、船内で発生した未知の感染症への対処として、全員陰性が確認できるまで上陸しないっていう対応を見ると、どうしても昨今のコロナ情勢を題材にしてあるのかな? と言う考えが頭を掠めるのですが、確認してみたらこの映画、製作が2019年なんですよね……一応2019年の終わりくらいにはコロナの話題も出てたと思いますが、多分今作を作ったのってその前ですよね? おいおい先見の明ありすぎかよ。
そしてキャラクターについても、なかなか個性的で良かったです。一番印象に残ったのは、やはり船内での待機を提案したヒロインですね。だいたいこの手のB級パニック映画の主人公って、自分たちが生き残るための対処に全力を尽くす、という感じなのですが、学者の卵であるヒロインは、とにかく感染症の封じ込めという理念を第一に行動します。自分たちの命が危険に晒されようが、これを陸に持ち帰るわけにはいかない、この船という密室内でこの事態に片をつけ、陰性確認ができる充分な時間経過まで誰も船から出さないという強い意志を持っています。視聴中は、こう言う役回りを主人公がするのってちょっと珍しいなー、と思って見てました。
この他のキャラクターたちも、それぞれそれなりに自分の考えを待って行動しているので、結構人間味があって好感が持てます。特に私は船長のキャラ、結構好きです。
とまあ、ここまではなかなかいい感じなのですが、今作にはジャンル詐欺以外にももう一つ、見過ごせない問題点もあります。それは、全体的に話が中途半端にまとまってしまっている、ということです。
先程、今作はモンスターとの接敵から寄生虫への対処、そして感染症の封じ込めと、話がどんどん移っていくため飽きないと申し上げました。しかしその代償として、今作ではその一つ一つの展開の密度が薄いのです。モンスターに関しては、寄生虫を船に植え付けるためだけの接敵なので存在感が薄いのは仕方ないとしても、寄生虫への対処パートについては「船全体に電流を流す」という割と適当な思いついでなんとかなってしまい、若干肩透かしを喰らいます。
また、1番の見せ場であろう、「感染症の封じ込め VS 船員の命」という意見のぶつかり合いについても、そこから深く話が展開していったりだとか、力強い説得に心を動かされたりだとかの描写が薄く、なんだかんだみんな割としっかりヒロインの話を聞いてくれるので、思った以上にスッと話がまとまってしまいます。寄生虫の脅威からやっと逃れられる、と皆がホッとした矢先に、ヒロインが無理矢理船を足止めするためにスクリューぶっ壊したりしたら、最悪頃されても文句言えないと思うんですけど、みんな大人だなぁ(感心)
まあ、そんな血生臭い描写をしろってわけではないんですけど、ここの部分は今作の見せ場なので、もう少し尺を割いて掘り下げても良かったのかな、と思います。感染症の封じ込めというヒロインの言うことはもっともなんですけど、当事者からしたら寄生虫が潜んでる船の中で待機なんてたまったもんじゃないですからね。しかも、船長は人命を預かる立場でもあるわけで、とにかく船員を救うためにあらゆる手を尽くし、葛藤し、悩み抜いた上で、その上でもう待機以外手がない、と苦渋の決断を下す、的な描写があっても良かったのかなと思います。それとも、現実にこんな事があったら意外と素直に従うもんなんですかね。ダイヤモンドなんとか号とかもありましたし。
というわけで総評ですが、展開の切り替えがなかなか上手で視聴者を飽きさせない工夫もされており、話のスタートからは想定外の方向に話が向かってゆくので良い意味でも期待を裏切られる、となかなか良くできた映画です。個人的な総合評価は結構プラスなんですが、やはりモンスターものとして見るとかなり肩透かしを喰らうということと、深いところまで話の掘り下げが出来なかったのが若干ネックでしょうか。ただし、クオリティの高い映画であることは間違い無いので、「こういうストーリーならむしろ見たいかも」と思われた方は、是非視聴をお勧めします。
それでは、また次回。