「どんな映画にも、きっと良い点がある」をモットーとして、主にB級映画のレビューや紹介、おすすめ等を淡々と書いてゆくブログです。

エクスペリメント アット・セントレオナルズ女子刑務所 のレビューです(総合評価D+)

(画像:Amazon商品ページより引用)

国籍……イギリス
制作……2020

タイトルからは分かりづらいですが、ゾンビ映画です。

それでは、まずは今作のあらすじ&予告編からどうぞ。

【あらすじ】

禁断の実験が行われる監獄島からの脱出を描くサバイバルアクション。絶海の孤島に建つ聖レオナルズ国際刑務所では死刑囚に対し、遺伝子を組み換える極秘人体実験が行われていた。しかし実験の結果、人間を狂暴化させる謎のウイルスが発生し…。(あらすじ:Amazon商品ページより引用)

【予告編】

ストーリー……D
ゾンビの質……C
キャラクター…C
設  定………D

総  合………D+
おすすめ度……C

【良い点】
・演出やゾンビの出来など、光る部分自体はある
・エンディング曲が良い

【悪い点】
・色々と設定は用意しているものの全く活かせていない
・中弛みがひどい
・やりたいことが先行しすぎてストーリーがぐちゃぐちゃ

 評価どうしようかかなり迷いましたが、Cに限りなく近いDとさせていただきました。前半のパンデミックシーンは状況も動き、先への期待感を持って楽しく見られるのですが、中盤からは中弛みがひどくなり、終盤はキャラの在庫整理などもあって興味が喪失、完全に集中力が切れました。エンディング曲の「The End of the World」(スキータ・デイヴィス)はFalloutファンには堪らないので、そこだけは文句なしに良かったです。

【以下、ネタバレ注意!】

エンディング曲が神だった(Falloutファン)

 さて今作ですが、女子刑務所ものでありながらセクシーシーンが一切ないゾンビ映画です。

 では早速、今作の内容を見て行きましょう。とは言っても、基本的に私はこの映画に対して「こりゃダメや」という印象をかなり強く持ってしまったので、いきなり悪い点スタートです。

 今作の悪い点は、とにかく無駄が多すぎる設定、中弛みがひどい事、そしてやりたい事ばかりが先行してストーリーがぐちゃぐちゃになってる事です。

 まずは設定から。今作ですね、ストーリーラインは「刑務所内でゾンビパンデミックが発生し、囚人と看守たちが協力して脱出を試みる」という至極シンプルなものなのですが、いくつかの特徴的な追加要素や設定が登場します。例えば、ゾンビには電灯の光に弱いという弱点があり、電気の下では動きが止まるとか、それとは別にゾンビは活発に襲ってくる時もあれば少し様子見するような態度をとってくる時もあるとか、ほんの多少知能の残っている個体がいるとか、途中で外部から身元不明の民間人の女が加入し、囚人と看守という刑務所関係者だけだったメンバー構成が変化するとか、主人公が意味ありげに過去の自分の思い出を回想する描写が複数回入るとか。しかしながらこれらの設定、ストーリー内で活かされているのは本当にごく一部だけで、ほとんどのものが「用意したはいいけどものの見事に活かす気がない」ものばかりなのです。これが今作の致命傷その1。

 いやですよ、例えばゾンビに弱点を作る、それ自体は全然アリです。今作だとそれは「日光はなんともないが電灯の光には弱い」という少し変わったものでした。でもこういう特徴的な設定を用意したのなら、本編中それを有効に活かす描写をするべきだと思うんですよ。その弱点を突いて逃走に役立ててもいいですし、逆にそれを脚本上うまく使って主人公たちを不利にさせてみても面白いかもしれません。でも、今作はそう言ったことをなぜか全くしないのです。まさに「用意はしたけど使わない」という、「じゃあなんで出したんだよその設定」と返さざるを得ない暴挙に出ます。

 これはゾンビの弱点以外の設定もそうで、次に顕著なのは途中加入する民間人女の扱い。詳細は後述しますけど、こいつの加入、ぶっちゃけ展開的にかなり強引なんですよ。この映画の話自体は、全然刑務所内だけで完結する内容なんですが、わざわざこのキャラを加入させるためだけに用意したとしか思えない展開をいきなりぶっこんで来てまでかなり強引に加入させたので、こっちとしては「なんかあんのかなこのキャラ」と思ってしまうんですね。しかし結果、最後の最後まで素性不明のまま、マジでただの一般人として死にます。もう本当に「じゃあなんでわざわざこいつ加入させたんだよ」と言いたくなる。

 いやね、全然いいんですよ、モブみたいな扱いのキャラがいること自体は。でも、中盤に本筋の話の腰を折って、それなりに時間を割いて、しかも専用展開まで用意して結構強引に加入させたキャラが、別に何でもないモブでした、って展開はマジで何がしたいのか分からない。

 こんな感じで、この映画は本当に「設定だけは用意したけど別に使わない」という場面がかなーーーーり多いです。いや、ブラフ目的で「一見伏線に見えるけど実は関係ない」という展開を散りばめること自体は別に悪くないと思うんですけど、わざわざ用意した設定全部ブラフにしたら意味ないでしょ。チェーホフの銃に真正面から喧嘩を売っていくスタイル。別に使わないんならしまっといてくださいその設定。

 致命傷その2、中弛みのひどさ。先述したように、今作のメインストーリーは刑務所内からの脱走を目指すというかなりシンプルなものなのですが、そのせいであんまり大きな変化がなく、中盤にもなってくるとかなりダレてきます。一応、刑務所内を動いたりはしてるんですが、どの部屋も似通ったような景色で画面上代わり映えのしない画が続き、しかも基本籠城寄りなので展開も動かず、という具合なんですよね。それでも前半は、先への展開の期待感もあってそれなりに楽しく見てはいられるんですけど、中盤にもなってくるとかなりキツくなってきて、とあるシーンをきっかけに私の興味は完全に削がれました。まあ、そのシーンっていうのが、例の民間人女加入シーンなんですけどね。

 

 このシーン何が問題って、この映画これ以降も刑務所内しか映す気ないな、ってばれちゃったことなんですよ。具体的に解説すると、中盤、生存者のうち2人が、刑務所外にいるという身内を探しに外に行くという展開になります。その2人に主人公も加え、3人は正門前で体制を整えてから、いざ開錠──というところで、話が一気に飛びます。どこまで飛ぶかというと、外から帰ってきた時点まで飛びます。つまり、扉を開けて刑務所外に飛び出した次の瞬間、キャラクターたちが刑務所内にいるんです。しかも、どこで拾ってきたかも分からない私服の女1人連れて。いや、普通にDVDぶっこわれたのかと思いましたよ。いつの間に俺はスタンド攻撃を喰らったんだと。

 

 この瞬間、あることが分かります。「あ、こりゃ予算不足で刑務所外の撮影してねぇな。じゃあ残り時間も全部刑務所かぁ」そう思った瞬間、興味が消失しました。いや、これはマジでよくない。絵面も一緒だしちょっと飽きてきたな、と思った絶妙なタイミングで刑務所の外へ意識を向けさせ、「さあここから展開が動きますよ! 屋外のシーン行きますよ!」と期待を持たせるだけ持たせておいて、次の瞬間には「やっぱ嘘でーーーすwwwしてくるんですから。しかも、こんなことしてまで無理矢理加入させたキャラはモブだし。こんなことするくらいなら、変に外とか意識させずに刑務所内で完結させるべきだったんですよ。それをお前──そういう期待だけ持たせて落とすのが一番いけねぇんだぞ!(半ギレ)

 そしてこの2つが致命傷その3につながってくるんですが、つまるところこの映画、とにかく「こういうシーン入れよう」っていう製作側のやりたいことばかりが先行し過ぎて、そこに持っていくまでのストーリー展開がかなりいい加減なんです。「ゾンビが電灯に弱いって設定面白くね?」と思いついても、それをどうストーリーに絡めるかまでは考えていない。「囚人と看守以外のキャラも出したいな」とは思ったけど、どうやって自然に加入させるかまで考えてない。「最後に1人生き残った主人公もゾンビになることにしよう」と決めたけど、その他のキャラの処遇を考えてないので、終盤一気に在庫整理みたいな殺し方をする。こんな調子なので、展開が所々明らかにストーリーから浮いてるんです。やりたい展開基準で話を考えるのはいいんですけど、その展開同士を自然につなぎ合わせ、ちゃんと1つのストーリーとして面白い作品に仕上げる、という力が圧倒的に不足しているように感じました。

 とまあ、ここまで見事にボロクソですが、でも今作、光る部分もちゃんとあるんですよ。それこそ、ゾンビのクオリティはなかなか悪くないですし、スプラッターシーンや襲撃シーンは(おそらく予算の都合上)カット多様であんまり見せてくれないけれども、暗闇と音を上手に使って迫力を出そうという努力はしっかり感じられるんです。まあ、結果襲撃シーンは終盤に行くにつれてかなりワンパターン気味になってましたけど、特に序盤は結構期待感高めのスタートは切れていました。またラストシーンの、主人公も実は感染していて、ヘリ内でゾンビになっちゃった、っていう描写も、単にそのままを映すんじゃなくて、主人公の回想シーンが歪んで燃えるという演出を通して間接描写、そのままエンディング突入、The End Of The World~♪っていう表現の仕方も結構好きでしたし、さすがやりたいこと先行で作っているからか、演出自体は光るものもちょこちょこありました

 また今作、ゾンビの襲撃自体は少ない上にワンパ気味ですが、その分キャラクター同士の絡みから生まれる人物描写に力を入れてくれているのは、その手の描写が好きな人にはうれしい部分ではないでしょうか。それこそ、ゾンビ映画によくある人間同士の衝突や、ゾンビに変貌した仲間に自分の手でとどめを刺す悲しみ、籠城中の漂う絶望感なんかをちゃんと時間を割いて描写してくれます。このへんが刺さる人には、評価が上がる可能性十分にありますね。

 というわけで総評ですが、個人的には全然ダメです。やりたいこと先行といってもその部分の出来栄えもかなり中途半端で、「うるせぇ! 何が何でも俺たちはこんな展開がしたいんだ!」みたいなこだわりが感じられるわけでもなく、ただただふわっと「こんなシーン入れたいよね」という程度の考えでシーン構成している感が見えるのがダメです。ストーリー構成が多少雑でも「ゾンビが電灯弱点なことを使ってこんなことが!」とか「強引に加入させたかに見えたこのキャラに実はこんな素性が!」とか、そういうストーリーにまでしっかり結びついてくる部分にまで昇華できていないのがダメです。

 

 と、かなり批判気味になりましたが、しかし演出面はじめ光る部分があることも事実なので、刺さる人には刺さる可能性もあります。もしくは、そういうところが気にならない人には、結構普通に見れた、ということもあるでしょう。そんな感じの映画でした。

 

 それでは、今回はここまでにします。ご拝読ありがとうございました。

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