内容の良し悪しや好みが分かれる問題は別として、コンセプト自体はなかなか独創的だと思いました。
さて今作ですが、レンタル版を字幕で見ました。まずはAmazon先生のあらすじからどうぞ。
【あらすじ】
“非社交的なサムは、元カノから私物を取り返すため彼女のパーティに渋々参加することに。人が苦手なサムは、奥の部屋に逃げ込みいつの間にか眠りに落ちてしまった。
翌朝、彼が目覚めると壁は血で染められ、生きている人間の姿はなく、サム以外の人間は全員ゾンビとなってしまっていた。
ゾンビに囲まれた建物に立て籠り、予測不可能なゾンビの襲来や日に日に減る食料と水に決死のサバイバルを繰り広げながら、他に生き延びた者がいないか捜索する孤独な毎日。
そんな絶望的な状態の中、やっと出会えた生存者のサラ。サムは、この終末世界を彼女と共に戦い抜くことはできるのか―。(あらすじ:Amazon商品ページより引用)“
ストーリー……C
ゾンビの質……B
キャラクター…C
設定……………C
ゾンビの質……B
キャラクター…C
設定……………C
総合評価………C
オススメ度……C
オススメ度……C
【良い点】
・題材の目の付け所は実に良い
・ゾンビの出来が良い
【悪い点】
・話に動きがない
・主人公に共感できない
「外の世界がゾンビで溢れかえる中、主人公がアパートで1人引きこもる」というだけの内容で90分持たせた映画です。その強烈に個性を放つ内容故、個人的にはけっこう人を選ぶ映画だと思います。僕はテンポ至上主義者なのであんまりハマりませんでした。
【以下、ネタバレ注意!】
今作ですが、おっさんが元カノのアパートで寝落ちしたところ、翌朝起きてみると全員ゾンビになっていたので、たった1人誰もいない世界で孤独に引きこもるというお話です。おい引きこもり!
と言うわけで見てわかるように、今作のメインとなるのはゾンビとの戦闘や逃走というよりは、おっさんが1人でひたすらに引きこもるという孤独との戦い、これが一番のメインテーマです。それ故に、他のゾンビ映画に比べ良くも悪くも個性的な仕上がりになっているので、結構人を選ぶと思います。個人的にはそれほどハマらなかったので、以下のレビューでもそれ寄りの視点からの評価になりますことをご承知ください。
なお、ネット上のレビューなどを見ていると、今作に対してはその着眼点の良さに対する高評価が結構見受けられました。その一方で、「退屈」「何が面白いか分からない」という意見も一定数あり、そしてその気持ちは個人的にはよく分かります。
では、それらを踏まえた上で、早速内容を詳しく見ていきましょう! まずは良い点から。
今作の良い点は、題材の目の付け所の良さと、ゾンビの出来が良いことです。
まずは題材について。しつこいですが、今作はゾンビ蔓延る世界に1人取り残された男が、ひたすら1人で孤独と戦い生きて行く様を描いた映画です。その性質上、普通のゾンビ映画では定番であるパンデミック拡大シーンや、仲間が襲われるシーン、目の前で知り合いがゾンビに豹変するシーンなどはまるでありません。それどころか、ゾンビを撃退したり彼らの群れから逃げたりするシーンもかなり少なく、あくまでもメインは孤独との戦いです。
ここで重要なのは、自分の周りには人間自体はたくさんいるということです。いや、正確には『人間の形をしたもの』ですが。例えば、災害なんかで人類が滅亡した後の世界で孤独に生き抜くとか、無人島で1人逞しく生きて行くとか、ホラーでよくある自分1人を残して周りに誰もいない状況とか、そう言った何らかの事情で自分1人だけ隔離された場所での孤独との戦いを描いた作品は数多くありますが、今作はここに「ゾンビ」を加えることで、明らかにそれらの映画とは違った雰囲気を演出することに成功しています。
自分以外にも、人間(の形をしたもの)は数多く存在しているのに、この世界には自分しかいないという独特の孤独感。この、一見矛盾する感覚が主人公をどんどんと蝕んでいき、果ては「この世界で異端なのはむしろ自分なのではないか?」「ゾンビでいいから話し相手が欲しい」という、周りを取り囲む人間の形をした人間ではない存在と自分との関係付けを行おうとする主人公の心理、はっきり言ってこれを描いてみせたのはかなり見事だと思いました。この感覚の演出は、ゾンビ世界だからこそ出来ることだと思いましたね。
また演出面で言うと、猫との出会いと独りバンド、ここの部分は主人公の精神がぶっ壊れていく描写としてはかなり見事な出来栄えだったと思います。猫については、屋外に猫の姿を見つけた主人公が、相手欲しさにその猫を追いかけようと安全地帯から外に出て、結果ゾンビの群れに襲われ命からがら逃げかえり、冷静になって考えてみればたかが見知らぬ猫のためになぜ命をかけてまで外に出たのか、あとほんの一歩で自分もゾンビになる所だった、という場面を描いたもの。独りバンドについては、ここ数日は外を歩くゾンビの姿を見かけない事に対し、主人公は安堵ではなくついにゾンビからも見放され、自分独りだけがこの世界に取り残されてしまったのではないかという強い孤独感を覚え、わざと楽器を演奏して大きな音を立ててゾンビをおびき寄せる、という場面を描いたシーンでした。このどちらも、主人公の覚えた強い孤独と、それを機に精神が蝕まれ行動がおかしくなってしまう様を見事に描いた場面だったと思います。エレベーターでゾンビ飼うのは賛否ありそうですが……。
また、ゾンビ自体の登場は決して多くはないものの、ゾンビ自体の質はかなり高いのは良い所。今作のゾンビはよくいる、叫んだり呻き声をあげたりするタイプではなく、基本的には声を上げずに襲ってくるタイプなのですが、この静けさがまた今作の孤独感の演出とマッチしていて非常にいい感じ。メイクの出来もかなり良く、ゾンビメインではないと言いつつも、ゾンビの出来には全く手を抜かないのは素直に凄いと思いました。
では続いて、今作の悪い部分、というより個人的にハマらなかった部分についてです。それは、話に動きがないということと、主人公への共感がイマイチ出来ないということです。
まずは話の動きのなさについて。これについては話の構成上仕方のないことなのですが、今作の「孤独」というテーマの扱い上、展開的にはどうしても話に動きがなく、退屈しがちな内容になっています。基本的に主人公が全編引きこもっているのを見せられるだけで、進展らしい進展がどうしても地味になってしまうため、展開に動きが欲しい人にとってはやはり退屈に感じてしまうかもしれません。私はどちらかというとこっち寄りの意見なので、途中からはだんだん退屈の方が勝ってきたように感じます。
特に後半、生存者がもう1人登場してからの展開はオチも結構読みやすく、割と退屈でした。流れも多少強引でしたしね。
咥えて、自分はこっちの方が問題だと思うんですが、主人公の行動に共感できない部分がある、というのは今作に対して1番残念だった点です。孤独と戦うため、独り退屈をしのぎながら日々を過ごすなかでだんだん精神的に蝕まれていく過程自体は好きだったんですが、何がいけないってこの主人公、自分が助かるために取るべき行動、もっと言うと外部との接触行動を全然取ってくれないのです。
例えば、ペンキ持ってきて屋上にSOSの文字を書いてみるとか、ラジオやテレビを毎日触って情報収集を試みるとか、看板立てて生存アピールしてみるとか、とにかく何でも良いんで自分の生存力を高めるための行動を取って欲しかったし、そういう自分に出来るあらゆる手を尽くした上で、なおも孤独との戦いに疲れて狂っていく、そういう描写が欲しかったんですよ。ところがこの主人公くんは、孤独との戦いに焦点を当てすぎて、当然先にやるべき事を全然してくれない。ぶっちゃけこの部分だけは、一切彼の行動に共感できなかったです。
主人公と、孤独との戦い。いわば今作の演出は、彼の心情に最大限寄り添った時にこそ真価を発揮すると言っても過言ではありません。そんな今作において、主人公の行動に共感できない一面が含まれているというのはハッキリ言ってかなり痛いですし、だからこそ、あんまり今作は私にハマらなかったんだろうなと思いました。ここの部分が気にならない方や、主人公の性格的に違和感がないと感じられる方にとっては問題となる部分ではないかもしれませんが、個人的にはどうしても気になってしまいました。
というわけで総評ですが、目の付け所は非常に良い。しかしその分人を選ぶ内容になっているのは間違いなく、ハマる方はハマると思いますが、とことんハマらない、という方もいると思います。私はどちらかというとその中間くらいでした。あらすじなどを読んだ上で、「これは面白そうかも」と思われた方には強くお勧めしますが、展開に動きや派手さを求める方にはお勧めできない作品だったと思います。
でも、個人的に猫のシーンめっちゃ好きなので見て欲しい。