「どんな映画にも、きっと良い点がある」をモットーとして、主にB級映画のレビューや紹介、おすすめ等を淡々と書いてゆくブログです。

ゾンビ・リミット のレビューです(総合評価C +)

(画像:Amazon商品ページより引用)
ネトフリで字幕で見ました。まずはAmazon先生のあらすじ&予告編からどうぞ
【予告編】
【あらすじ】

“幸せなカップルのケイトとアレックス。ケイトは、ゾンビウイルスに感染した患者“リターンド””をサポートする病院で働いている。リターンドの保護に反対する人々も多く、過激なグループは暴動を起こしていた。
そして、まことしやかに囁かれる噂が出回る。ゾンビウイルスを抑制するワクチンの残数はあと僅かである、と。ケイトとアレックスは、大量のワクチンを抱えて逃亡することを決意。
ワクチンが無くなっていく恐怖、政府に発見される恐怖に怯える二人だが、本当の恐怖は別の所にあった。(あらすじ:Amazon商品ページより引用)

ストーリー……C
キャラクター…C
設定……………C 
総合評価………C+
おすすめ度……C
【良い点】
・目の付け所は良い
・やりたい事はすごくよく分かる

 

【悪い点】
・事態に対する必死感が足りない
・ゾンビ設定はもっと上手く使えたはず
 ゾンビがほとんど出てこないゾンビ映画です。いつものレビューなら評価項目に「ゾンビの質」を入れてるんですが、それを除外するレベルでゾンビ出てこないです。ゾンビ化に対抗する手段が確立した世界を舞台に、「そのワクチンの供給が絶たれたら?」というテーマで人間同士の争いを描きます。そのコンセプトはかなりGOODで、やりたい事は非常に伝わってくるのですが、もう一歩詰めが甘い印象。このままでも面白いは面白いのですが、脚本を少し見直せば名作に化けるのでは?とも思いました。個人的には惜しい映画です。
【以下、ネタバレ注意!】
 ゾンビ映画なのにゾンビが出てこないとはたまげた。
 さて今作ですが、治療法の発見によりゾンビによるパニックが収束した後の世界が舞台です。特殊なワクチンにより、過去に感染したことがある人でも、それを毎日摂取することでゾンビ化を免れることが出来るため、ゾンビの脅威はもはや過去のものとなっていました。しかし最近になり、ヒロインの耳にワクチンの供給が不安定になっているという噂が届きます。ワクチンを摂取し続けなければ、感染者はまたゾンビとなってしまう。そんな事態を避けるため、ヒロインは感染者である旦那のため、感染者の強制収用へと動く政府の目をかいくぐり、なんとかワクチンを収拾しようと奮闘するのでしたーーこんな感じのが、今回のあらすじです。
 では早速、今作の良い点と悪い点を見て行きましょう。まずは良い点から。
 今作の良い点は、目の付け所が良いということです。
 先に述べた通り、今作はゾンビがほぼ出てこないゾンビ映画です。しかも、ほぼというのは伊達なレベルではなく、全編通してゾンビが出てくるのは真面目にほんのごく僅か一瞬のみで、主人公たちや一般市民がゾンビに襲われたり逃げ惑ったりする描写はマジのガチで皆無です。まともにゾンビが映るのは、過去に主人公がゾンビに襲われた時の様子がチラッと映るのと、店入ったら店員がゾンビなってたのを撃ち殺す描写くらいのもので、ゾンビものお約束の感染拡大描写等はものの一切ありませんあくまでも今作のメインはゾンビではなく、ゾンビパニックの再来を目前にした人間なんだという強い意識を感じさせる構成でした。

しかし、ゾンビ映画でありながらゾンビを出さず、目の前の恋人がゾンビになるのを防ぐため、国の監視の目をかいくぐってワクチンを集めて暮らすヒロインに焦点を当てるという発想、これ自体は映画として良かったと思います。治療法ありのゾンビ映画というと、大体はその治療法を探すことに焦点が置かれるか、治療法に問題があってゾンビパニックの再来が起きた後の世界を舞台にする、というのが多いところ、治療法の存在は一般にも広く認知されていて、かつゾンビパニックの再来が起きる前の世界を舞台にする、という作品は珍しいからです。これにより、感染の恐怖を前にした人間たちの争い、奪い合いに関する部分がちゃんと前面に出てきていました。

 また、このような極端な構成に偏らせ、とにかく人間に焦点を当て、極限の状態に陥った人間ドラマを描こうとしたその意図、今作がやりたいことは非常によく伝わってきますこの映画で描こうとしたものと、目の付け所は良かったと思いました。

では、続いては悪い点を。今作の残念な点は、着想の良さに反して内容的に物足りないことです。

良い点でも述べた通り、今作は目の付け所は実に良い。良いんですが、内容がそれに追いついてきていない印象を強く受けました。人間ドラマメインにするのはいいとしても、その人間同士の争いや抗争に関する部分の出来には疑問が残ります。まあ設定が多少ガバっているのは置いておくとしても、何よりも生き延びるためになんでもするという必死感が足りない、これが今作に緊張感が足りない1番の問題だと思います。

 例えば、ヒロインは感染者である恋人のために、供給不安定となったワクチンをなんとか手に入れようと走るわけですが、結局やっていることは知り合いのコネを使ってワクチンを優先的に流してもらっているだけで、ワクチン入手のために直接的に自分の手を汚す行動をしてくれません。そのため、今作の大きなテーマであるはずの「他人の命を犠牲にしてでも身内を助けたいというエゴ感」と、「身内のためならなんでもするという必死感」非常に薄れてしまっている。もちろん、作中でも「結局他人の分を使って生き延びているだけ」というような発言は恋人から飛び出しはしますが、その部分をあまり重く扱ってくれないので、せっかく人間ドラマメインなのにこの部分が薄くなっているのは実にもったいない。他人の分を盗むとか、そういった直接手を汚す手段は取らないにしても、間接的には誰かの命を奪っている、という部分はもっと強く押して欲しかった。そうすれば、ラストシーンももっと映えたと思うのですが……。
 また、人間ドラマメインとは言っても、設定上存在するゾンビを映像的に全く使わないのはさすがに如何なものか……と思いました。ワクチンの供給不足により、感染者が発症し過去のゾンビパニックが再び起きるのでは、という社会的不安の拡大は説明としては理解できるのですが、もっと映像的にもその危機感を煽る描写が欲しかった。感染者はワクチンを手に入れるために病院に通う必要があるので、基本的に政府は誰が感染者であるのかを把握しているのですが、作中には主人公の恋人のように、病院などに通わずワクチンを入手している隠れ感染者も存在する、という設定を今作では取り入れています。それでありながら、作中では隠れ感染者が発症して市民がゾンビに襲われるという事件が起き、それによって隠れ感染者に対する社会的風当たりがさらに強くなるが、それでも身内を守りたいというエゴに従って行動する……というような、「隠れ感染者」や「ゾンビ」を上手く使おうとする描写があんまりありません。これはやっぱり物足りないよ!

つまり、現状今作は、ゾンビを感染症に置き換えても全然成り立ってしまう内容になっているのがもったいない。「人間ドラマがメインなんだから、ゾンビはあえてなるべく使わない」という方向性にしたかったのは分かるんですが、ゾンビという視覚的に危機感を強く感じさせる存在をせっかく採用しているのだから、使えるものはしっかり使って欲しかった。まあ、この辺の意見は個人差ある部分だとは思いますが……。

 また、設定面に関しても気になった部分はちょこちょこありましたし、前振りがちょっと丁寧すぎて、オチがわりと安直な胸糞バッドエンドルート型であることが読めてしまうことなど、他にも細かい問題点は多いです。まあ、しかしこの点は良い点悪い点に比べれば割と些細な問題なので割愛いたしまして……。
 総評ですが、着眼点は非常に良く、やりたいこともバシバシと伝わってくる一方で、内容が構想に追いついていない部分が見受けられることや、全体的に飽きはしないけれども起伏に乏しいのは問題かなぁ、と感じました。ゾンビゾンビしたゾンビ映画を求めなければ結構楽しめる作品なので、気になった方はいかがでしょうか? なかなか興味深い作品でした。
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