「どんな映画にも、きっと良い点がある」をモットーとして、主にB級映画のレビューや紹介、おすすめ等を淡々と書いてゆくブログです。

ファスト映画問題について思うこと

 どうもこんにちは、当サイト管理人のさがんです。
 今回は雑談記事なんですが、ちょっと真面目な話題、ファスト映画問題について思うところがあったので、軽く語りたいと思います。

①ファスト映画とその問題点

 さて皆様は、ファスト映画ってご存知でしょうか? 先日NHKで取り上げられ、Twitterでも話題になっていました。これは何かというと、NHK曰く

「映画の映像や静止画を無断で使用し、字幕やナレーションを付けてストーリーを明かす10分程度の動画」
(出典:「ファスト映画」投稿急増 映画産業界に危機感 法的措置も

 とのことです。要は最近YouTubeとかでよく見かける、映画紹介と称して一本の映画の内容を起承転結、その結末に至るまで事細かに説明、要約するだけの動画のことですね。数分〜10数分という短時間で映画本編の内容を丸々把握でき、あたかも本編見た気分になれるため、ファスト映画と呼ばれているようです。それに関するNHKの記事のリンクを貼っておきますので、まだ読んでいない、という方はちょっと読んでみてください。短いのですぐ読み終わります。

 どうやらこのファスト映画なんですが、「映画の本編見るのはだるいから概要だけ知って見た気分になりたい」という層の増加と、その映画の話題性に乗っかって滅茶苦茶再生数を稼げるらしく、近年爆増されており問題視されている、とのこと。そして、これに関する問題点が、大きく分けて二つ提示されています。

 一つ目は単純に、本編映像等の無断使用による著作権法違反の問題。これは分かりやすいですよね。しかしこれは、レビューだろうが紹介動画だろうがなんだろうが、そもそも著作物勝手に使ってんじゃねーよ、となる問題であるため、ファスト映画特有の問題ではありません

 むしろ問題となっているのは二つ目で、この動画を見れば本編の内容が起承転結全て把握できる、つまりあたかも映画一本丸々観た気分になれるため、ファスト映画だけ見て満足し、映画本編を見ようとする人が減る=映画会社の収益減につながる、という問題。これがね、今回問題視されている事になります。

 ここまで読むとね、「いや、百里あるよな」となる至極真っ当、火の玉ストレートのド正論主張であり、ファスト映画と称して脳死で本編切り抜いて、てきとーなナレーションつけて再生数稼いでるだけの動画投稿して荒稼ぎしてんじゃねーよ、ということになっているわけです。まあ、実はファスト映画撲滅したところで、あんまり意味ないんじゃないか、という意見もあるため、一概にファスト映画撲滅=映画会社の収益増、と言い切れない部分もあったりするのですが、ここを語りだすとゲロ長くなるので、今回は割愛。めちゃくちゃ簡単にいうと、「ファスト映画を見て映画を見た気になる層」もいれば「そこから本編に入ってくる層」もおり、一概にどっちの効果がでかいとは言えないということや、「そもそもファスト映画って短い時間で映画を見た気になれる層が利用しているものだから、それがなくなったところでそんな奴らが映画本編見に行ったりしないんじゃね」という意見などがあります。まあ、仮にその意見が正しいとした場合でも、真っ黒の著作権法違反であることには変わりないんで、削除されてしかるべきなんですけどね。
 まあ、とにかくこの辺の話は流しておいて、今回私が発信したい情報は、ここからが本番。

②知的風ハット氏、全過去動画非公開事件

 さて、このファスト映画問題を受けてなんですが、先日あのB級映画レビュー界の重鎮、通称「メタルマンの人」こと知的風ハット(浅井ラム)氏が、自身の動画を全て非公開にする、という由々しき事態が起きました。ご本人曰く、ご自身のレビューが「必ずしもファスト映画でないとは言い切れないのではないか」との判断から非公開にされたらしいのです。

 このツイートを見た時の、私の正直な感想としては、

 いやその気持ち、めっっっっっっちゃ分かる

 いや、すごく分かります。そもそもレビュー動画とファスト映画の線引きってものすごく難しいことに加えて、ファスト映画の定義が現状曖昧なんで、「もしかしたら、自分のレビューも……」という気持ちになっちゃうの、すごく分かるんですよね。かつ、結局それがアウトかセーフかを判断するのは視聴者ではなく権利者、つまり映画会社なので、どんな意図をもって作成しようが、映画会社がアウトと言えばアウトなんですよ。だから、「大丈夫だとは思うが、100%白と言い切れない以上、何かある前に対策をする」という判断、大変賢明だと思います。

 もちろん、私個人としては、知的風ハット氏の動画は世間に溢れる再生数稼ぎのためだけのファスト映画とは、一線を画するれっきとしたレビュー作品であると思っており、そもそもあれがファスト映画認定されたら世のレビュー動画の大体はアウト、というレベルになりますので、個人的には本当に残念な事態ではあります。ご本人さんとしても、これまで莫大な時間をかけて作成されて来た過去の作品たちを非公開にする、という判断の裏には、並々ならぬ苦悶があったことと存じます。

 まあ実際のところ、おそらくはこのまま公開したままでも、権利者からの申し立てで削除とかはあり得たとしても、まさか裁判なんて事になる可能性は限りなく低いとは思います。ただ実際、その「まさか」があったときに、責任を取らされるのは知的風ハット氏ですし、ネタバレレビュー自体がグレーである現状、何かある前に、との心配から非公開にしようという気持ち、(超弱小マイナーサイトではありますが)同じくレビューをしたためる身からすると、痛いほど分かります。

 知的風ハット氏のツイートに付いたリプライなどを読んでいると「あなたのはファスト映画じゃないから、アンチの声に負けないで欲しい」的な意見とか「大丈夫だろうからまた公開して欲しい」的な意見が結構多かったんですけど、いや、違うんですよ。ご本人さんだって「なんかイチャモン付けてくるめんどくせーのが湧き出したから、非公開にしとくか」とかいう気持ちで非公開にされたんじゃないと、私は思います。

 また「ネタバレしてないから大丈夫では?」という声も多くあったんですが、これも難しいところなんですよね。そもそもネタバレって、オチだけにかかる部分の話ではなく、例えばその作品の見どころなんかを画像や文字を使って説明、解説するだけでも、場合によってはネタバレに該当したりするため、「オチに触れなきゃええやろ」というもんでもない。その辺諸々考慮された上で知的風ハット氏も今回の判断をされたのだと思いますし、何度も言うように、それがファスト映画に該当するかどうか、アウトかセーフかの判断をするのは我々視聴者ではなく映画会社である以上、仮に「浅井ラムちゃんの動画を見て興味を持ち、本編見ました!」という人がどれだけいようが、映画会社がアウトと言えばアウトなんですよね……。もちろん、それに抵抗して裁判で成否を争うという手もありますが、恐らくそういうリスクを取る方でもないと思いますし、我々視聴者としては受け入れるしかないです、大変残念ですが。

 とにかくこの騒動を受け、知的風ハット氏は動画を非公開にされ、今後違う形での動画形式を検討していく、と仰っておられるので、活動は継続されるようです。その点は本当に安心しました。これからも応援しております。

 さて、ではこれで「いやーレビュー動画投稿者は大変だな! うちのサイトは文字だけのレビューで本編映像やキャプチャ画像も使ってないし、良かった良かった」──で、終わらないんですよねぇ……。このファスト映画取り締まりの流れ、今後の流れ次第によっては(というより現状もそうですが)、レビューブログ等に波及してくる可能性も十分に考えられます。

③セーフとアウトの基準はどこなのか

 そもそもなんですが、レビューとファスト映画の違いって何でしょう? 感覚的にいうと、ファスト映画とは映画の内容を起承転結に至るまで細かに文字起こしし、概要をまとめただけのもので、レビューとは筆者等の感想を交えて展開されるもの、というイメージがありますが、ここの線引きって、ものすごく難しいんですよ。

 例えば(どこのサイトとは言いませんが)、映画の内容を起承転結に至るまで事細かに何ページも書いておいて、最後の最後に自分の感想を数行だけちょろっと載せる、的なサイトを見かけたりするんですけど、あれなんかは例え筆者の感想をちょろっと載せてあろうが、構成比的には圧倒的に内容暴露に重きが置かれているため、やってることはファスト映画と何も変わりません。仮にキャプチャや本編映像を使わず、文字だけで説明をしていようが、内容を事細かに書き起こしただけの文章は、普通に著作権法違反に問われます(翻訳権だったか翻案権だったか、とかいうのに引っかかる)。文字だけなら大丈夫、感想付けとけば大丈夫、ってもんじゃない。

 このように、内容を書き起こしただけで筆者の意見なんて全然入ってない、一目見るだけで余裕でアウト、と分かるものならいいんですけど、ぶっちゃけ世の中には、グレーなものもたくさんあります。例えば、大まかに起承転結は説明していくんだけど、それに沿って逐一筆者の感想を述べているような場合など。こうなってくると、それがファスト映画なのかレビューなのかは、かなり曖昧になって来ます。

 そもそもレビューって、細かく書こうとすれば書こうとするほど、どうしたってオチ含む内容に触れていかなければなりません。例えば自分が「シナリオがひどい」と感じた作品について、どの部分が酷かったのかを説明しようと思ったら、どうやったって内容に触れていく必要があります。そうでなくても、例えば「キャラクターが魅力的だった」ことを伝えたい場合、「こんなシーンで彼がこんな行動を取っていて、それが魅力的に映った」という説明も、やりすぎれば「映画本編の要約、説明」に該当する、と取られるかもしれない。その辺にどれだけ触れていくかによって、レビューがだんだんグレーの領域に突入していく事になります。先に述べたように、例えキャプチャ画像や本編映像を使っておらず文章で説明するだけでも、場合によってはアウトになるからです。これは、仮にファスト映画には該当しなかったとしても、著作権法的にアウトになる、という場合も含めての話です。
 引用にとどめれば問題ないのでは、との声もあるかと思いますが、その引用も頻度が高すぎると、内容の複製として著作権違反になることもあるため、一概にOKとも言い切れない、というのがさらに苦しいところ。

 かと言って、清廉潔白、100%の白を目指し、内容に一切触れずに書こうとすると、「面白かった」「つまんなかった」「〇〇くんがかっこよかった(無関係自撮り写メ)」くらいしか書くことがなくなり、味気ない感想ばかりが溢れるゴミレビューになることも明白なため、多分レビューサイト運営やレビュー動画投稿をしておられる方の多くは「どれだけのグレーを許容するか」を考えながら日々制作されていると思います。

 なので、先に紹介した知的風ハット氏のように、いくらオチにはなるべく触らないからと言って、100%の白を保証できない以上、「大丈夫だとは思うけど、もしかすると」という思いに駆られる気持ちは滅茶苦茶共感できます。特にそれは、名前が大きくなれば大きくなるほど増える心配事ですので、知的風ハット氏のような超大物にもなれば、その心労は計り知れません。

④当サイトへの影響と今後の対応について

 ここまで読んでいただければ分かると思うのですが、基本文字のみを使用しているとは言え、ネタバレ全開で言いたいこと言いまくっている当サイトのレビュー記事は、完全にグレーど真ん中です。キャプチャ画像や本編映像は、ほぼ全ての記事で使用していないため、その点は一般で言うファスト映画とは区別できますし、内容についても個人の感想に重きを置いており、それを説明するため、必要に応じてネタバレや内容紹介に触れていく、という形式でやらせていただいていますので、少なくとも「狭義の」ファスト映画には該当しないとは思っています。
 ですが、オチ含めたネタバレに言及しまくっているのは事実ですし、何よりも仮に、浅井ラム映画レビュークラスの内容の動画でアウトだと言われたとしたら、うちのサイトは完全に真っ黒、削除不可避もやむなしです。

 まあ、うちは知的風ハット氏とは違ってクソ弱小ドマイナーサイトですからあんまり心配していませんし、なによりも自分自身では確固として、「うちはファスト映画とかいう中身のない本編要約とは違う」という確信を持って運営させていただいているので、今回の件を受けて過去記事を非公開にしたりだとか、今後の方針を変えたりとかはしません。そもそも、私がこのサイトを始めた動機は、「マイナー映画を見た人に、自分の直球の感想を伝えて共感してもらいたい」「映画を見て終わりではなく、感想などを共有したい」との気持ちがあってのことなので、自分が感じたことをストレートに発信する方式自体は何とか続けたい、というのが本音です。

 ですが、ファスト映画や内容書き起こしに関する著作権の基準が曖昧である事から、ぶっちゃけ結構、ビクビクしながらサイト運営しているのも事実です。仮に権利者から「てめぇのネタバレゴミレビュー消せや」と言われたら5秒で消す準備をしながら、日夜レビュー書いてます。

 というわけで、今回はファスト映画に関して、「ファスト映画、ないしそれに類するサイトへの削除対応には完全同意だが、ファスト映画とレビューの境界ってかなり曖昧で、レビューサイトも対岸の火事の話じゃないし、今後の展望によっては色々と怖いよ」というお話でした。

 ぷるぷる、 ぼく わるい レビューサイトじゃ ないよ

 レビューサイトのことは許して(許して)

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